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「そもそも、イメージ作りから頓挫してますよね、俺達」
ソージローが呆れたように言う。
「あんまり暗くない……爽やかな青春っぽい曲にしよう、という漠然としたところで止まってるじゃないですか。で、インプットしようと他のバンドの爽やか曲ばっかり練習してたら、上手くはなったけどちっとも自分達の曲ができないままになってると」
「う、うるせえぞソージロー……」
「でも、このままじゃまずいんでしょ。今はまだクレーム来てるけど、直接音楽室に誰かが怒鳴り込んでくる事態にはなってないじゃないですか。でも、そのうち近所からもお叱りが来ますよ、煩いって。この学校の近辺、怖いおじーさんとか多いですし」
「それな……」
さらに床に沈没するタクマ。ああ、と僕も遠い目をしたくなる。というのも、以前この学校の文化祭で屋外ライブをしたところ、ご近所からのクレームで急遽中止に追い込まれたことがあったのだ。
土曜日の真っ昼間にグラウンドで演奏していただけ、文化祭の告知はずっと前から出していた、にも関わらずである。なんとも心の狭い近隣住民がいたものだ。だが、学校側にやめてくれと言われてしまえば自分達もどうしようもないのである。
それ以来、ライブも練習もみんな体育館か音楽室限定で行ってきたのだが。流石に最近は、遅い時間まで練習しすぎたということらしい。確かに、窓の外はとっくに真っ暗になっている。
「本当に困ったね」
僕はため息をついた。
「あと半年くらいで曲を完成させないと……僕達みんな卒業しちゃうよ。でもその前には、形だけでも作詞しないと。曲先から作るなんてできないってば」
「だから私の歌詞を使えばいいのよー!」
「ルカはちょっと黙っててね?ていうか歌うの僕だってことをきちんと考えてから作詞してね?」
乙女心丸出し、誤字脱字だらけ、ついでに壊滅的に字が汚いというトリプルコンボをやらかしたベーシストに僕は引き攣った笑みを向ける。
せめて誰か、客観的に状況を見てくれる人や、作詞作曲の知識がある人に助力を頼めないものか。残念ながら、僕達にそんなアテはないわけで――。
「演奏が止んでると思ったら……お前ら何をしてるんだ」
「え?」
その時。ずずず、と音楽室の重たいドアが開いた。そこに立っていたのは、僕のクラスメートの少女である。
茶色のウェーブした長い髪、ヤンキーガールと噂の超喧嘩強い少女――加藤貴美華だった。
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