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「音楽室が夜までうるせーから止めてこいって頼まれたんだよ、校長に」
「さ、さようでございますか……」
学校内でも有名なヤンキー少女の登場に、見た目だけヤンキーのタクマは借りてきた猫状態である。そんなに怖い人なのだろうか、彼女は。確かにアレコレ変な噂がある人ではある。小学校の時から番長だったとか、実はオカルトに傾倒していて魔法が使えるとか、幽霊退治のエキスパートで頼られてるとか、それでいて絵がめちゃくちゃ上手くて漫画研究同好会に助っ人として駆り出されてるとか、実は男女ともにめちゃくちゃモテるもんだからバレンタインデーが戦争になってるとか――。ああ、そういえば素手で熊と格闘して倒した、なんて話もあったような。大半、眉唾なものばかりである。
ただ、傍から見てる分には、みんなに頼られているかっこいい姉貴肌なキャラでしかなく。しかも、ちょっと見ないくらい美人と来ている。同じクラスの僕には、あまり話したことはないもののそんなに悪いイメージのある人物ではないのだった。
「今の時間何時だと思ってんだよ。夜の九時だぞ。外真っ暗じゃねーか、さすがにこの時間まで練習するのはやりすぎだ」
貴美華は渋い顔で僕らを見回して言った。
「そこまで熱心に練習してる理由は何なんだよ。一応話くらいは聞いてやるぞ?」
「何でそんなに偉そうなのよアンタは!私達は自分の曲を作りたいだけなの、素人は黙ってなさいよ!」
「曲?」
堂々と貴美華に喧嘩を売るルカはいっそ清々しいほどである。僕は心の中で、“いや、その人は君と違ってちゃんと楽譜読めるし音楽の成績も良いと思うよ”とツッコミを入れていた。貴美華は不良チックな外見をしてるくせに、成績も悪くないことで有名なのである。
とりあえず、こうなっては説明しないわけにはいかない。僕は貴美華に現状を話した。自分達のオリジナル曲を卒業までに作りたいこと。そして、それがどういう理由で頓挫しているのか、などを。
「ふーん、なるほど」
すると。意外にも学校屈指の不良と名高い少女は、目をぱちくりさせて言ったのだった。
「アタシが手伝おうか?一応、楽譜くらいは読めるし、多少作詞作曲の心得くらいはあるぜ?」
まさに、渡りに舟である。
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