青空レイミー!

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 ***  確かに、現在の多くの歌は曲先で作られてることが多い。が、場合によっては歌詞先で作るのも悪くはないのだと貴美華は言った。 「というか、曲に歌いやすい歌詞を作って当て嵌めてくのって結構大変なんだよな。苦手な奴は超苦手。それに、曲を作るときも歌詞がないとイメージがぼんやりしがちだろ。お前らはそれもキツそうだし、歌詞先でいいと思うぜ」 「歌詞かぁ。でも、どんな風に作ればいいのか……」 「後で修正してもいいし、基本的には歌いやすくて聞き取りやすい歌詞なら問題ないんじゃないか?」  くるくると指を回して言う貴美華。 「韻を踏む歌詞が多いのは、歌いやすさと聞き取りやすさを兼ね備えてるからだ。あとはそうだな、歌詞の変なところで曲が途切れる、切り替わるのは避けたい。だから歌詞の段階で曲作りは意識したほうがいい」 「というと?」 「例えばこんなかんじ」  貴美華はコピー用紙に、さらさらと文章を書いた。 『赤く染まる空を見ていたらあの日の光景が蘇ってきてしまってバカみたいに泣きたくなった夕方』  どうやら、ちょっと詩的な歌詞っぽいもの、であるらしい。  しかし、これが歌いづらい歌詞なのはボーカルの僕にはすぐにわかった。どこで呼吸すればいいのか、メロディーが折り返すのか、何小節で歌われる歌詞なのか――そういうのがまったく見えないからだ。 「な?これ、歌詞としてダメダメなのわかるだろ?でも、こう書き換えると一気に歌詞らしくなるはずだ」 『赤く染まる空を見ていた  蘇るのはあの日の光景  何で今思い出すんだろうって  バカみたいに泣いた夕方』 「……一気に、どこで息を吸うのか、小節数とか見えた感じ」 「だろ?」  言われみれば、歌詞というものは四行や二行ずつで成り立つことが多い。  それは、四分の四拍子で考えた時の、楽譜の小節数に対応しているから、曲にしやすいテンポだからと気がついた。上記の歌詞ならば、恐らく一行ごとに四小節ずつ使っている、という想像がつく。同時に、これひっくるめてAメロなんだろうな、ということも。 「このくらいの基本的な作詞ルールさえ守って作れば、曲も圧倒的に作りやすくなる。勿論こういうお約束を破った曲はいくらでもあるけど、初心者は基本中の基本で作ったほうがベターだからな」  そうだな、と貴美華は笑って言う。 「Aメロがこれくらいの長さで四行。Bメロが半分の二行。サビがAメロと同じ四行……って縛りでまずざっと書いてみるといいと思う。あと、男子のボーカルが歌うのを想定してな」 「……だってよ、ルカ。聞いてるかー」 「うっさいわよ!」  僕が水を向けると、自覚があったらしいルカがふくれっ面になった。あはは、と明るい笑い声が上がる。ひとまず、方向性が見えてきた形だ。あとは、もう少し具体的にテーマを決めればいいだろう。
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