青空レイミー!

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 現時点では“爽やか系”ということしか決まっていない。いくらなんでもぼんやりしすぎている。 「お前らのバンドらしさをアピールしたいんだろ?」  僕が素直に悩みを吐露すると、貴美華は目を丸くして言った。 「なら、もうそのまま行くんじゃ駄目なのか?お前らがバンドを結成する流れとか、きっかけとか、歴史とか。そういうものをそのまんま歌にしてみるのも悪くないと思うんだけど」 「……その発想はなかったかも」  驚いて、仲間達を振り返る僕。タクマも、ルカも、ソージローも同じように顔を見合わせている。 「なんならアタシに話してくれよ。お前らの結成秘話」  な?と貴美華はまるで少年のようににっかりと笑って言った。そうやって言われると、なんだか照れくさい。やがて、タクマがぽりぽりと頬を掻きながら話し始めたのだった。 「いやーその、大したきっかけじゃないんだよな。漫画読んで憧れたんだよ、俺。ヤンキーが、音楽と出逢って喧嘩やめて更生するってハナシ」 「それって、週刊少年シャープに連載してる“伝説のヤンキーバンド”?」 「そうそう、それそれ!でさ、音楽と出逢って……人の心を動かすためには暴力は必要ないんだって知って成長していく主人公がカッコ良くてさ。俺もその、そいつみたいに音楽で変わりたかったというか、音楽で何かを変えてみたかったというか、自分の殻を脱ぎ捨ててみたかったというか……なぁ」  ぽつぽつと語るその言葉に脈絡はない。しかし、僕は気づくとすらするとメモを取っていた。何か、とても大切なものがそこにたくさん隠れているような気がしたのだ。  すると、そんな僕に気づいたのかルカとソージローもそれぞれのエピソードを語ってくれる。  ルカは最初、ベースを馬鹿にしててギターをやりたかったこととか。でも実際、ベースを借りて思いつくままタクマとセッションをしてみたら、想像よりずっと深みがある音が出てハマってしまったこととか。  ソージローも最初はみんなが目指してるものがバラバラで、こんなバンドでうまくいくか心配だったこととか。初めて、人気バンドの曲をコピーして演奏できた時、みんなの心がひとつになった気がして嬉しかったこととか。  それから。その日の夕焼けが、めちゃくちゃキレイだったこと、とか。 「あ、あのさ!」  まとめた言葉。いくつものキーワード。それらを書き並べて、ひとつにして。  僕は書きなぐったそれらをみんなに見せて言ったのだった。 「か、加藤さんのアドバイス踏まえてこんな感じにしてみたんだけど、どう!?」  興奮しきってひっくり返った声を。愛しい仲間たちは、誰一人として笑わなかったのである。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加