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『憧れたんだ 漫画の中のヒーロー
音楽で誰かを救うイカしたやつ
綺麗事だろって誰かは笑うかもだけど
暴力じゃない方法で世界を変えてみたくて』
不思議なもんだなぁ、とアタシは思った。ほんのちょっとアドバイスしただけ、ほんのちょっときっかけを与えただけだ。それだけなのに、停滞していた彼らの時間が動き出したのを感じていた。そう、ずっとどうして悩んでいたのかもわからなくやるほど――あっさりと歌詞ができ、曲ができ、彼らだけの歌が完成したのである。
青空レイミー。彼らのバンドを冠した曲を、ボーカルのリチが晴れやかな顔で歌い上げる。ギターを掻き鳴らすタクマも、ベースを奏でるルカも、ドラムを叩くソージローも本当に楽しそうだ。
『個性の塊みたいな奴らばっかりで
しょうもない喧嘩が耐えない仲間だけど』
多分彼らはどうして、歌を完成させられなかった本当の理由を知らないのだろう。彼らに技術がなかったからではなく、彼らの仲が悪かったからでもなく。完成させられなかった――その想いに囚われて動けなくなっていただけであったのだと。
多分、知らないままで、終わる。けどアタシは、それでも全然良いと思うのだ。だって、歌う彼らは本気で幸せそうなのだから。
『青空レイミー 君と歌う素晴らしきこの世界
たった一曲のために馬鹿みたいに費やしたけど
青空レイミー 君と祈るそのために生まれたんだ
笑っていようぜ最後まで 僕達が生きたこの証』
ゆっくりと、音楽室が光に包まれていく。笑顔のバンドメンバーの姿がゆっくりと光の粒となって消え始めていた。
当然と言えば当然だろう。彼らはこれでようやく、未練から開放されて成仏できるのだろうから。
――あいつら、本当に気づいてなかったんだな。自分達が、バスの事故でもう死んでるってこと。……あの曲を完成できなかったのが、よっぽど未練だったんだろうなぁ。
青空レイミーのメンバーは、一ヶ月前に合宿に行く途中、事故で自分達が死んだことも気付かず音楽室で曲作りと練習を続けていた。――そりゃ、クレームも来るというものだ。毎日、誰もいない音楽室から音楽が聞こえてくるのだから。校長が、アタシの霊感を知って頼み込んでくるのもわからない話ではない。
もしも、卒業式までに成仏できなかったら。本当に、音楽室の地縛霊になってしまっていたことも考えられただろう。
『青空レイミー 君と探す美しきこの世界
どの音一つ欠けても僕等じゃないって気付いた』
――そこまでして一緒にいたい仲間ができた、最高の人生じゃねーか。……天国でも、仲良くしてろよな。
『青空レイミー 君と歌う素晴らしきこの世界
たった一曲のために馬鹿みたいに費やしたけど
青空レイミー 君と祈るそのために生まれたんだ
笑っていようぜ最後まで 僕達が生きたこの証』
歌が終わった時、溢れていた光も消えていた。後に残ったのは、爽やかな風が吹く、アタシ一人しかいない音楽室である。
「ブラボー」
たった一人の観客として、アタシは盛大な拍手を送った。虹の橋を渡る彼らにも、どうか届くと祈って。
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