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「ソラ君、クウ君、ちょっと来なさい」
翌朝。険しい顔をしたおじいちゃんに、僕達は呼び出されることになった。
「二人とも。こっそり四階に行ったりしていないやろね?」
「!」
「四階のね、ドアの鍵が外れてたんや。君達がやったわけやないやろね?」
「し、知らないよ!」
どうやら、僕達が四階に行ったことがバレたというわけではないらしい。僕達はぶんぶんと首を振った。四階を覗いたが踏み込んだわけではないし、何より鍵は元から開いていたんだから――と心の中で言い訳をして。
すると。おじいちゃんはほっとしたような顔で僕達の頭を撫でて、疑って悪かった、と謝ってくれたのだった。
「ね、ねえじいちゃん。何で四階に入っちゃいけないの?」
僕はそれで、ようやくずっと疑問に思っていたことをおじいちゃんに尋ねたのである。すると、おじいちゃんは困ったように笑って言ったのだった。
「そういうお約束だからやで。じいじも、じいじのじいじと約束したんや。何でなのかは知らん。でも、あそこに入ったらあかんから、四階にはドアと鍵をつけて誰も入れんようにしとるんやで」
結局。
僕達はそれ以降、一度も四階には近づかなかった。どころか、じいちゃんの家に行く機会も減った。正直、あの夜見てしまったものの正体を考えるだけで恐ろしかったし、三階のあの寝室に寝泊まりする勇気もなかったからである。
それから二十年以上の時が過ぎ、じいちゃんとばあちゃんが相次いで亡くなって。結果あの民宿も廃業となり、建物そのものを取り壊すことになった。
ここで、さらに恐ろしいこの話のオチがつくことになるのである。解体作業はソラ君のお母さん、郁子伯母さんが業者に頼んで行うことになったのだが。その時、彼女はこう言ったのだ。
『三階建ての平屋なんて、何でそんな珍しいものを建てたのかしらねー、おじいちゃんのおじいちゃんは』
つまり。
あの建物は、そもそも四階建てではなく三階建てだったのだ。そういえば、僕達も外から四階があるかどうかなんてきちんと確認したことがなかった。普通に、じいちゃんの言葉から四階建てだとばかり思い込んでいたからである。
では、僕達が見た“四階”はなんだったのだろう。
じいちゃんのじいちゃんは、存在しない四階に何を閉じ込めていたのだろう。
そもそも、あの南京錠はこちら側から外されていた。
僕達が見たあの夜、鍵を外しておいたのは誰であったのか?
あの屋敷の中に何がいたのか、結局もう知っている人は誰もいない。
とっくに大人になった今でも、僕はなんとなくあの土地に近づくのが怖い。
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