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やくそく、やくそく。
これは僕が子供の頃に体験した怖い話。
僕達一家は東京に住んでいたけれど、両親の親の実家は関西だった。一応、正確な県名とかは風評被害になるかもしれないんで伏せることにする。とにかく、関西の田舎の方、とだけ覚えておいてくれればいいから。
田んぼと森に囲まれた、いかにも田舎ーってかんじのところで、僕のおじいちゃん(お母さんの親の方だ)は民宿をやっていた。民宿というだけあって結構な日本家屋で、しかも珍しく四階建という建物だった。田舎に行くと、じいちゃんちを探検して遊ぶのが、僕と従兄のソラ君の日課だったのだ。
おじいちゃんは優しい人だったが、僕達が夏休みとかに遊びに行くと決まって同じことを口にするのだった。
『はい、ソラ君にクウ君。今年も、君達に確認するで。この家に来た時に、御約束事はなんやろね?』
『はい!“四階には行かない”です!』
『せや、ちゃんとわかっとるね。それだけ守れば、いくら探検してもええからね。ただし、じいちゃんの大事な壷割ったり、障子破ったりしたらあかんで。じいちゃんがばあばに叱られて泣いてまうからな』
『はーい』
関西人らしく、お茶目で面白いおじいちゃんだった。毎回のように“四階には行かない”を約束させられるのだが、僕達もそんなに深刻には捉えていなかったのである。じいちゃんが、冗談めかした物言いをしてくるからというのもある。
きっと老朽化していて危ないからとか、埃っぽいからとか、そういう理由なんだろうと思っていた。
三階までのスペースでも充分かくれんぼとかはできたし、民宿に来るお客さんも子供を嫌がるような人はほとんどいなくて優しかったから楽しかったというのもある。まあようするに、僕達にとってはその程度、“いつものじいちゃんのアレか”くらいの約束だったというわけだ。
そう、僕が十歳、ソラ君が十一歳になった夏までは。
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