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「そ、そうだけどさ。……何があるのかな」
こういう時。怖がりなくせに“怖いからここで引き返す”と言わないのがソラ君である。この時は明らかに、恐怖より好奇心が勝っていたのだろう。それは僕も同じだった。せっかく鍵が開いているのだ、ちょっと見るくらいなんでもないだろう。
僕は錠前を落とさないように気を付けながら、そーっと木製のドアを開けた。そして、その隙間からドアの向こうを覗きこんだのである。さながらトーテムポールのように、ソラ君も僕の下から同じように廊下を見た。
一見すると、四階のフロアは三階までとさほど変わらないように見えた。しかし、眼が暗闇に慣れてくると段々、その違和感に気づくようになる。
青い光に照らされた廊下は――右側にずーっと壁があるばかり。つまり、下の階までと違って、ドアや障子といったものが一切見つからなかったのだ。ちなみに、左側は格子窓が並んでいて、そこから月明かりが差し込んできている形である。
――変な構造だな。四階って廊下しかないの?いやそんな馬鹿な。
部屋が一つもない階なんて、そんなものあるのだろうか。首を傾げながら、四階に踏み込むかどうか考えていた時だった。
廊下の突き当たりで、何かがもぞりと動いたのが見えた。最初は影を見間違えたのかと思ったが、違う。
それは、ニンゲンの形をしていたのだ。
それも、廊下の天井の高さを考えるなら――随分と、大きい。そいつは猫背をこちらに向けているようだった。そして、ゆっくりと立ち上がろうとしていたのである。
2メートルどころではない身長なのは、すぐに分かった。
なんせ酷い猫背で背を丸めているのに、頭があっさりと天井についてしまっていたからである。そのままでは立ち上がれず、首を大きく曲げていた。実質、天井には頭ではなく背中をつけているような状態だとでも言えばいいのか。
異様に足が、長い。そして、月明かりに照らされているはずなのに、その姿は塗りつぶされたように黒い。
――な、なんだあれ?
ヒトガタに見えるが、あれは本当に人間なのか。僕が完全に固まった時、ソラ君が強く僕の腕を引っ張った。そして、口パクで“逃げよう”と伝えてくる。
僕は気づいた。その真っ黒な影がゆっくりと――こちらを振り向こうとしていることに。
「!」
よくわからないが、まずいものを見たような気はする。僕は慌てて首をひっこめると、ドアを閉めてその場から逃げ出したのだった。
そして二人して部屋に戻ったのだが――この時、南京錠を嵌め忘れていたことに気づいて青ざめることになるのである。
ソラ君が言っていた、天井から覗いていた眼というのはあいつのことだったのだろうか?自分達を、寝室まで追いかけてくるということはないのだろうか。
結局その夜は、殆ど一睡もできずに終わったのだった。
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