シンガーソングタンテー

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シンガーソングタンテー

「犯人が分かっただって!?」  その声に私は顔を上げた。旦那様が緊急搬送されて12時間が経った。庭の木に止まった鳥が鳴き始め、空が白くなる。  発端は、昨夜の夕食会だ。大学病院の理事長として名の知られる旦那様が月に1度、この山奥にある洋館に、親戚や仕事先の方々を招待される。会は、いつものように和やかに進んでいく。そう思われていた。 『旦那様!? 旦那様! 医者を呼べ!』  突如体調を崩され、気を失われた旦那様。料理を口にされた直後だったという。念のため警察を呼んだところ、旦那様の料理から毒物が検出された。それも未知なもので捜査は難航している。 『これは殺人未遂事件ですな……』  会場は一転してパニックに陥った。刑事はそれらを制止し、犯人が中にいる可能性が高いと、事情聴取が終わるまで館に留まるよう指示した。  途方もない時間が過ぎたように感じる。しかし、時計の短針はまだ半周しか過ぎていなかった。  ショックのあまり眠れなかった。給仕として旦那様に長年お仕えしてきたが、このようなことが起こるなど信じられない。誰からも慕われる旦那様が、どうしてこのようなー。 「犯人が分かっただって!?」 「広間に集まれってさ!」  その声に導かれるよう、ぼやけた焦点を何とか合わせながら、私は広間へと向かった。皆が集合している。刑事の姿もある。  そこにはショックと不安、苛立ちが混ぜ込まれていた。初めてこの館にいることを、苦痛と思った。旦那様のご友人である盛田様も暗い表情だ。 「刑事さん! 犯人は誰なんですか!」  ご長男の信之様が声を上げる。この場でも物おじしない姿は流石である。 「早く私たちを帰してちょうだい!」  ご長女の久子様はお怒りのご様子だ。家のことはそっちのけでいつも遊び歩いており、これも旦那様の心配というよりは、ただ早く帰りたいというのが本心だろう。 「へっ、どうせ遺産目当てであんたがやったんだろう。久子姉さん」  孝之様のその言葉でいつもの喧嘩が始まる。 「はあ!? なに言ってるの! そういうあんたが一番怪しいわよ。勘当寸前だって聞いたけど!?」 「今それは関係ないだろ!」 「関係なくないでしょ! だいたいあんたはねー」 「久子、孝之! 皆様の前だ! いい加減にしろ!」 「そういうお兄様はどうなの? 全然家を継がせてくれないって、不満だったじゃない」 「なに!?」  正直、地獄絵図である。この場に居合わせる皆様に同情する。夫人が亡くなられてから、旦那様はこの家を一人で切り盛りしてきた。しかし、ご家族の中に、旦那様の安否を本気で案じる方などいるというのか。 「盛り上がってるねー!!」  ……え?  
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