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「改めて今日は、俺の推理に来てくれてどうもありがとう。ここは、いい現場だねえ!」
気持ち悪い当て字をやめろ。
「入り口でTシャツと、この前の推理CD売ってるんで、よかったら買ってください!」
インディーズばりの告知もやめろ。
「さあ! ここで、もう1曲いこうかなって。みんな気になるよね? どうして親友なはずの盛田さんがそんなことしたのか」
騒がしかった広間も、いつしかタンテーの言葉に皆が釘付けである。そう言うと彼は、今度は静かにゆったりとしたメロディーを弾き始めた。
「聞いてください。『Reason』」
毎回曲名はださいな。
「♪あれは去年の夏 苦しむ盛田さんの会社 助けてほしいと彼に頼んだ」
そんなことがあったのか。
「♪でもダメだった しかもライバル会社と 仲良くなり一 裏切られたと思った」
「……ああ、そうだ。親友だと思っていたのに、あっさりと切り捨てやがって……。許せなかったんだ! あいつは、競合社と、俺を追い落とす算段を立てていたんだ!」
「それは、本当なんですか」
「そうだよ刑事さん! そうに違いない!」
盛田様の顔は険しくなり、言動もかなり感情的になってきている。歌の合間に話しているからポエトリーリーディングみたいになっているが。
「♪理事長が話していたのは あなたの社員のこと」
「……え?」
「♪あなたと あなたの社員を 助けてあげてほしいと お願いしていた」
一気に盛田様の顔から血の気が引いていく。旦那様は裏切るどころか、盛田様をなんとか救おうとされていたのだ。支援を断ったのも、確かでない約束はできないということだろう。
「そんな……嘘だ……!」
「♪理事長は あなたを裏切ったことが あったのか」
「……ない」
「♪あなたを 嫌っていたか」
「ない……あいつは……い、いつも……俺のために……」
盛田様は言葉を詰まらせ、大粒の涙を流した。やがて声を上げて泣き出した。
「♪理事長 さっき意識が戻った」
「……えっ!?」
今度は広間いっぱいに驚きと歓喜の声が響く。急ごしらえで作った毒だったため、奇跡的にも一命をとりとめたようだ。
「……よかった」
私もつい、言葉を発して安堵した。心なしか彼と目が合った気がする。
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