シンガーソングタンテー

4/6
前へ
/6ページ
次へ
「改めて今日は、俺の推理(ライブ)に来てくれてどうもありがとう。ここは、いい現場(ライブハウス)だねえ!」  気持ち悪い当て字をやめろ。 「入り口でTシャツと、この前の推理(ライブ)CD売ってるんで、よかったら買ってください!」  インディーズばりの告知もやめろ。 「さあ! ここで、もう1曲いこうかなって。みんな気になるよね? どうして親友なはずの盛田さんがそんなことしたのか」  騒がしかった広間も、いつしかタンテーの言葉に皆が釘付けである。そう言うと彼は、今度は静かにゆったりとしたメロディーを弾き始めた。 「聞いてください。『Reason』」  毎回曲名はださいな。 「♪あれは去年の夏 苦しむ盛田さんの会社 助けてほしいと彼に頼んだ」  そんなことがあったのか。 「♪でもダメだった しかもライバル会社と 仲良くなり一 裏切られたと思った」 「……ああ、そうだ。親友だと思っていたのに、あっさりと切り捨てやがって……。許せなかったんだ! あいつは、競合社と、俺を追い落とす算段を立てていたんだ!」 「それは、本当なんですか」 「そうだよ刑事さん! そうに違いない!」  盛田様の顔は険しくなり、言動もかなり感情的になってきている。歌の合間に話しているからポエトリーリーディングみたいになっているが。 「♪理事長が話していたのは あなたの社員のこと」 「……え?」 「♪あなたと あなたの社員を 助けてあげてほしいと お願いしていた」  一気に盛田様の顔から血の気が引いていく。旦那様は裏切るどころか、盛田様をなんとか救おうとされていたのだ。支援を断ったのも、確かでない約束はできないということだろう。 「そんな……嘘だ……!」 「♪理事長は あなたを裏切ったことが あったのか」 「……ない」 「♪あなたを 嫌っていたか」 「ない……あいつは……い、いつも……俺のために……」  盛田様は言葉を詰まらせ、大粒の涙を流した。やがて声を上げて泣き出した。 「♪理事長 さっき意識が戻った」 「……えっ!?」  今度は広間いっぱいに驚きと歓喜の声が響く。急ごしらえで作った毒だったため、奇跡的にも一命をとりとめたようだ。 「……よかった」  私もつい、言葉を発して安堵した。心なしか彼と目が合った気がする。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加