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「私は卓が好きだから一緒にいたいの!なのに卓は仕事仕事って!」
「麻季……。麻季の気持ちは嬉しい。だから時が経てば俺の仕事も理解してうまくやって行ければと思っていた」
「思っていたって、なに過去形言ってんのよ!」
「でも、麻季は自分の好きを貫くだけで俺を理解してくれようとしてくれたか?2年過ぎても変わらないならこれからもだよね?お礼に品物届ける位、なんで行ってらっしゃいが言えない?会うとも言ってないじゃないか」
「届けるだけなら宅配でもいいじゃない!」
「住所も知らない、メールも電話番号も麻季が付き合う時に全部消せって言ったから消しただろ?そんなに俺を信用出来ないか?」
「嫌なの!卓は私の物!誰にも関わらせたくない、ましてや元カノなんて」
それから暫くの沈黙が流れた。
「麻季……俺もう無理だ……」
「えっ?」
「別れよう……ここにある俺の物は全部捨ててくれ」
俺は席を立ち玄関のドアを開けた。後ろから麻季の声がしていたが耳を傾ける気にもならなかった。
帰り道、悲しいと言う感情も怒りさえも沸いて来ない。街灯が照らすアスファルトとそれが途切れたアスファルトが交互に並ぶ道をただ当たり前の様に歩ける自分に、既に麻季への想いは途切れていたのだと悟った。
群青色の空を見上げると一番星が寂しげに光っている。
その群青色を見てあの日の静止画の花火を思い出した。
やはり俺の夏の夜はあの時のまま止まっていたのだと気づいた。
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