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花火大会の日、俺は人混みに逆らいながら彩の家に向かって歩いていた。
何度も通った道だった。 手には新製品が入った紙袋。あの浴衣姿と擦れ違わないかとが確かめながら歩いていた。
もうあの家にはいないかもしれないのに、でもせめて「ありがとう」が伝わればと……ご両親に言付けだけでもと思い、ただひたすら歩いた。
家の前に着くと3年前とは建物の様相が変わっている。
やはり彩はいないのか……嫁に行ってしまいリフォームしたのかと思いを巡らせながらインターフォンを押した。
玄関が開き、彩のお母さんが驚いた顔で、でも直ぐに笑顔で俺を迎えてくれた。
「あら卓君、久しぶり」
「ご無沙汰してます」
「玄関先じゃなんだから中に」
優しく迎え入れてくれる笑顔は彩の面影そのままだ。玄関に入ると2階から子供の走る音がしている。
「突然すみません。これ彩さんにアイディアもらってから長い年月かかっちゃいましたけどやっと新製品が出来たのでお礼に渡していただければと」
俺は恐縮しながら紙袋を差し出した。
中を覗きこんだお母さんは
「あら、孫が好きなお菓子。こんなに沢山、喜ぶわ」
「彩さんのお子さんですか?」
「違う違う、長男夫婦と2世帯住宅にしてね、そっちの孫よ。彩の部屋は1階に増築してそこにいるわ。喜ぶわよ、どうぞ入って」
お母さんは当然の様に俺を招き入れたようとした。
「い、いえ。これを届けに伺っただけで」
俺は予想していなかった彩との対面に戸惑い遠慮をしてしまった。
「何言ってるの、さっこっち」
お母さんはお構いなしに俺の後ろに回り背中を押した。
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