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部屋の前に着き
「彩、お客様。開けるわよ?」
「えっ?どなた?」
中から懐かしい彩の声がする。
静かに扉か開いた。
「えっ……」
俺は固まったまま動けない。
あの綺麗な長い足に布を被せ、車椅子に座った彩がいた。
彩も俺を見て一瞬固まり、でも直ぐにあの柔らかな笑顔で
「あ~ぁ、ばれちゃった。こんな姿、卓に見せたくなかったのに」
とお母さんを上目遣いで睨んでから「ご覧の通り、笑っちゃうでしょ?」
と俺に聞いてきた。
俺は瞬時に言葉が出ずにいると
「冷たい物持ってくるからゆっくりしていって」とお母さんが部屋から出て行った。
やっと出た言葉が「彩、いつから?」だった。
「病気なの、わかったのは卓からプロポーズされた少し前』
「ごめん、知らなかった……」
「謝らないでよ、当たり前だよ言ってないもん」
「お待たせ、はいどうぞ」
お母さんが麦茶を置き部屋を出て行ったのを見て
「卓、テラスに出ようか?」
ガラス扉を開けるとテラスに向かいスロープが出来ていた。
「押そうか?」「大丈夫」
そんなぎこちないやり取りをしてから俺はテラスのテーブルに麦茶を置いた。
空を見上げながら彩がポツリポツリと話し出した。
「私は卓の夢を応援していた。確かに会えない日が続いて辛かったり悲しかったりしたけれど、いつか卓の夢がかなった時の喜ぶ顔が見られればそれで全部吹き飛ぶと思っていた」
麦茶をひとくち飲んで続けた。
「でもね、私は卓の子供を産めない。だから卓のプロポーズを聞いた時、もうお別れしなきゃって……それから私は毎日一番星を見つけてお祈りするのが癖になったの。卓の夢が叶いますようにって」
俺を見てにっこり笑った後。
「だからお店に行った時、あの新製品見て嬉しくて沢山買っちゃった」
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