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俺は彩が話す言葉、一語一句に彩の優しさと愛情を感じていた。
「ほら、今日は一番星はあそこだよ」
彩の指の先を追うと光る一番星が見えた。俺はそれを見つめ
「彩、ありがとう。一番星ってあんなにデカかったっけ?」
彩が俺を不思議そうに見上げながら「卓、顔見せて」
「ん?」
「やだ卓、目が潤んでる」
ケタケタと笑う彩につられて俺も笑った。
遠くからドーンと言う音が聞こえた。
「彩、花火見に行こうか?」
「えっ、だって……」
足に目を落とす彩に
「大丈夫、俺がいる。さっ行こう!」
今度は彩の瞳が潤んでいた。
ゆっくり車椅子を押しながら彩といる幸せを噛み締めていた。
花火が見える位置に着き、彩の横に立った。
「卓、この花火大会ずっと皆勤賞だよね?」
「えっ?だって……」
「あれからやってなかったじゃない。沢山の人が辛い思いや悲しい思いをした日々が続いて花火大会が中止になってたじゃない?私はそんな人達に本当に申し訳ないけど花火大会が来るのが怖かった。あの日を思い出したくなくて……だから今日の夜が怖かった。そしたら卓が現れた」
「そっか、あの花火大会からやってなかったもんな……」
大きな花火が上がり辺りが明るくなった時、視線の先に腕を組んで楽しげに花火を見上げる茅野と麻季がいた。俺は苦笑いをした。茅野、そういう事か……。
彩が首を傾げて俺を見上げている。
俺は何も見なかった事にして彩に話しかけた。
「彩、花火綺麗だな」
「そうだね、卓と見ているとタイムスリップしたみたい」
「じゃあ、タイムスリップしよう!」
「えっ?」
「あの時のさようならは無しだ。続きを始めよう。大丈夫、俺が側にいる」
あの夏の夜、静止画だった花火が今目の前で動き出した。
完
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