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付き合い始めた頃、ふたりここで同じ景色を見た。慣れない細いヒールで砂浜にざくざくと穴を空け、清楚なブラウスにくすぐったさを感じながら眺めた直人の横顔は、今でも鮮明に思い出せた。ノクチルカというのは夜光虫の英名。夜光虫っていうと幻想的な感じがするけどノクチルカっていうとちょっと可愛いよね、と直人は弛んだ顔で教えてくれた。以降私の中でそれはノクチルカになった。
直人とはおよそ七年付き合っていた。お互いもういい年だしそろそろ結婚しよう、という流れになるくらいの関係だったし、私もそうなると思っていた。けれど、七年という歳月により積み重なってきた、厚い皮の存在に気づいてしまった。本当は別れたくなんてなかったけど、内側から皮を食い尽くそうとする私自身を、もう無視できなかった。
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