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人を傷つけてはいけません、悪い事をしてはいけません、やられたからやりかえすのはいけません。
こういうことを本気で言う輩は、さぞ幸せに生きてきたんだろうなと思う。そんなことない、辛い事もあったよ、なんて。本気で死のうと考えたことがない奴らのいう事だなと思う。本当に、本気で辛いことがあった時はそれを他人に言ったりしない。何故なら口に出すのも思い出すのも辛いからだ。
自分でも馬鹿だなと思う。人を傷つけたり殺せば犯罪になる。そんな勇気もないし、そいつのせいで自分の人生をムショで過ごすなんて御免だ。だからこんなアナログな、絶対に効果なんてない方法に縋ったりする。結局気持ちが一時すっきりするかどうかだ。また時間が経てば嫌な気持ちになる。
嫌いな奴がいるんだ、嫌いというより憎い奴というか、とにかく今すぐ死んで消えてほしい奴。会社の先輩にあたる奴だけど、説明するには言葉が足りないくらいゲスで最低な奴。さっさと転職すればいいんだろうけど、秀でたスキルもない俺には無職のままになる可能性が高い。スキルアップをしようとしても今の会社にあいつがいる限り無理だ。もう、本当、考えたくもない。
だから。こんなバカな方法に縋る。手には藁人形と釘と金づちを持っている。
ネットで何気なくみつけたんだ、人を呪う方法。正しいやり方なんて気にしない、丑三つ時でもない。だって山の中なんだ、夜に来たら自殺行為となる。
とある県の、とある山の、とある場所に生えてる木。これに藁人形で呪いをかければ叶う、らしい。呪えば自分に呪いが返って来るとかいろいろあるけど、もうそんなことどうでも良かった。とにかく何かしたかったんだ。
想像以上に獣道なところを歩き続けて、やがて。まるで手入れされたかのようにぱっと木々や草が開けた場所に出た。その中央に、あった。大きな木。大きな……
「……いや、うん。そうなるよな」
見えた木には、思わず突っ込みたくなるほど藁人形が打ち付けられていた。一個や二個なんてもんじゃない。何十個だあれ、百以上あるんじゃないか。
冬になると木に藁を巻いて害虫駆除とかするけど、あれが木全体に巻かれているかのようにも見える。なんていうか、モッコモコで温かそうにも見える。
近寄ってよく見ると、藁人形の上に別の藁人形が打ち付けられている。百じゃないな、もっとある。他人の藁人形の上に打つなよ……。
まじまじと木を見つめる。こんなにうちつけられて、木は穴だらけのはずだ。それだけ傷だらけになると割れたり水分がなくなったり虫に食われたりいろいろあるだろう。いずれにせよ、この木の寿命は長くないかもしれない。なんだか、不憫な感じだな。
『あなたも呪いに来たのですか』
「は?」
突然声がして辺りを見渡すが誰もいない。そして、嫌な予感がして木を見つめる。
『おや、私の声を聞いて悲鳴を上げて逃げ出さなかったのは珍しいです』
「えーっと……しゃべってんの木でいい?」
『yes!』
「何でテンション高ぇんだ、あと何で英語」
あり得なさ過ぎて逆に冷静になった。
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