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『それで、貴方も呪いに?』
「え、いや、まあ……」
冷静に、しかも今から打ち付けようとしてる木に言われるとなんて返したらいいか。
『ということは、私にその釘を打ちに来たのですね?この姿を見て何も思わないのですか。正月の仮想大賞番組でもこんな格好する人いませんよ』
「いや、確かに誰もやらないなそんな恰好、怖すぎて」
『虫という虫たちが良い巣があったわとか言ってうじゃうじゃ住んでるし、それを狙ってリスと鳥が集まって来るし、それを狙って蛇も来るし。集合住宅ですよ』
「うへえ」
『もっふもふで暖かい! 冬最高!』
「喜んでるんじゃねーか」
意外と快適なのか、木に虫がつくのって良くないと思うんだけど。ツツガムシじゃなきゃいいのかな。
『そんな生き物たちのパラダイスに、貴方は釘を打つのですか』
「あ、そっち? てっきり私が痛いからやめてとか言うのかと」
『いえ、それはいいんです、ウェルカムです。気持ちいいの大好きです』
「おい、聞き捨てならない言葉聞いたぞ今」
『あなたが釘を打てば、うっかりそこにいた生き物も死ぬかもしれません。食物連鎖知ってます?呪い殺したい人以外のたくさんの命を奪うことになりますよ』
「あー、はい……」
何か微妙な路線で説教され始めたどうしよう。しかもさっきまでのどす黒いモヤモヤした気持ちがすっかり消沈して、なんだか恥ずかしいから帰りたくなってきた。こういうのって我に返るとやばいな。
ふと木の根元当たりがどす黒く染まっていることに気づいた。それをじっと見つめていると木が語り掛けてくる。
『それは血ですよ』
「へ!?」
『私の樹液です』
「驚かせんなよ」
『何がですか。樹液は人で言うところの血液でしょう』
「ああ確かに。ごめん」
『何なら別の体液で想像してもらってもいいです』
「他の体液は汚そうなもんしか思いつかないからいい。で、何で樹液がこぼれてんの」
『釘を打ち付けられると、樹液がこぼれるんです。それが少し赤黒いもので、血だと勘違いするんですよね皆さん。だから呪いが成立する、この木は呪われてるなんて言われるんです』
「……」
その話を聞いてなんだか切なくなった。こいつの樹液が赤黒いのはそういう木だからというだけなのに、人は勝手に都合の良いように、悪いようにとらえて勝手にレッテルを貼っていく。ただここに生えているだけという、ただの木なのに。……しゃべる、というのはひとまずおいといて。
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