1400色の世界

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 苛々した足取りで足早に街の中を歩いていく。すれ違う人、ぶつかりそうになる子供、歩きスマホをしてこちらに気づいていない奴。こいつにはわざと肩をぶつけ大きく舌打ちをして睨んだ。相手が何かリアクションする前にさっさとその場を後にした。 なんていうかさあ、センスがないよね。  懸命に考えた企画は課長の一言であっさり却下されあとはうだうだと聞きたくもないご高説だ。俺だったらこうするよ、もうちょっとさあ、あーだこーだ。  うるさい、お前の趣味嗜好なんて聞いてない。会社として必要だと思った企画なんだからお前がどう思うかなんてどうだっていいんだよ。なんであんなのが上司なんだ、無能な上司のもとにいる部下程可哀そうな存在はないと思う。そのくせ部下が上げた企画を自分の好きなように手直しをしてもっと上に提出しているのだから質が悪い。それを経営陣や人事部に言ったところで証拠がないからどうせ何もしない。最悪だ。 俺はこう思うよ。 知るか、どうでもいい。センスの欠片もない奴の言う事なんて便所で流し忘れた汚物と同じだ。  ずんずん歩いて行き、適当にメシでも食うか胸糞悪いままなのも嫌だ、と行った事のない道へと進む。いわゆる裏路地というやつだろう、こういうところは飲み屋などが多いが個人経営の飯屋くらいあるはずだ。  てきとうにふらふら歩いていると、ふととあるビルが目に入る。複合ビルだろう、1階ごとに入っている会社などが違うようだが、地下にギャラリーと書かれている。何のギャラリーかもわからない、検索をしても情報が何も出てこない。地下と言うのがまた入りにくいし何もわからないのでスルーしようとしたが。 センスがないよね。 ……ああそうですか、センスがないなら感性を磨いてみましょうかね。上司からのありがたいご指摘もありましたしこれも社会勉強ですよ、とわけのわからない子供じみた考えが浮かんだ。気が付いたら地下に向かって足を運んでいた。  地下にはすぐについて、小さな立て看板に「ギャラリー 私たちの見える世界」と書かれている。開催者の名前も何もない。変な所だな、と思いつつ扉を開けて部屋に入れば、会議室ほどの小さな部屋に絵がいくつか飾られているだけというシンプルな場所だった。受付もないし無人だ、ただ絵が飾られているだけ。 無料か、勝手に入って好きに見ていけということだろう。その方がこちらもありがたい。 絵は十数枚、大きいものから小さいものまで様々だ。  一枚目、きれいな風景画だがおかしなことにそこら中に穴のようなものが開いているかのように、黒い円形のものがいくつも書き込まれている。丁度古い絵が虫食いになったような。せっかく絵も上手く、紅葉シーズンだったのだろう真っ赤な山々が美しいのにもったいない。そういう芸術家気取りの奴かと思い、絵の下にあるプレートを見ると。 「五十川すみれ 常に視界に穴があく」  名前はともかく、視界に穴が開く? 意味が分からない。穴が開いて見えたらこんな感じだと言うことだろうか。そういうセンスの人? と思い次の絵を見る。
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