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そして、その思考を真似したいと思った。できなくていい。でも、後ろ向きに考えるよりも前向きに考えた方が人生楽しいに決まっている。
まずは声に出してみる事で自分の脳みそにポジティブだと勘違いさせることから始めよう。調べたら本当に実践して効果がある方法らしいとわかり、嘘やんなんで、と思っても無理やりポジティブに考え声に出してみた。
カー、と烏の鳴き声がしてペトっと頭に糞がつく。
「……じ、地面が汚れなくてよかった」
「いや、アンタが汚れてんでしょ。早く拭きなって、ほらティッシュ」
「ありがとう……」
「あのさ、我慢はよくない」
「あ、はい」
紙コップタイプの自販機で飲み物を買おうとしたらカップが落ちず、飲み物だけジャーと流れて終わった。
「募金した……」
「いや貢いだだけだねこれは。企業がラッキーなだけなやつ」
「うう……音羽はこういう時どうするの」
「どうするもなにも。たかが100円、って思うなら無視。気になるならここに何かあったら連絡してくださいって連絡先書いてあるんだから連絡すればよくない?」
「あ、はい」
バスに乗り遅れた。次のバスは18分後と微妙に長い。割と生き急いでいる睦月は待つ、というのが大嫌いだ。
「……思いつかない、ポジティブシンキング」
「次のバス停まで歩こうよ、そんなに遠くないし着く頃バスくるでしょたぶん」
「あ、そういう考え方か。ちょっとコツわかってきた」
「あはは」
音羽の、こういうところが好きだ。ちっくしょう、と声に出さない。次の行動を考えている。マイナスの言葉を言わないので、こっちもマイナス思考にならなくなってきた。
そっか、自分がポジティブにならなくても誰かが言ってくれてるならそれでもいいのかもしれない。そう、声に出して伝えた。次のバス停まで歩きながら。何でそんなことができるのか、と何気なく聞いてみると。
「いやあ、睦月がいるからね」
「へ?」
「あんたいつも全力じゃん、感情も考えも燃え尽きそうな勢いで。ついてない時全力で悲しむけど、嬉しい時は全力で嬉しがるじゃん。それを私とシェアまでしてくれてさ。なんかそれ見てると頑張ってみようかなって思える」
「……」
うるっと目にくる。またこいつは、そういうことを本人の前で言うかね。私が涙もろいの知ってるくせにどうしてくれよう、とぐぐっと歯を食いしばって考える。
「なんか悔しいのでジュースを奢ってやろうぞ。愚民は何が飲みたいのじゃ」
丁度自販機がある。ちらっとそれを見た音羽はケラケラと笑った。
「殿がワタクシめにぴったりだと思うものを頂戴いたします。先行くから、買ったら追いついて最高の決め台詞と共に私に渡しなさい、青汁だったらぶっ飛ばす」
「ふふん、見くびるでないぞ。いいでしょう首洗って待ってろ」
あはは、と笑って音羽は先に歩き出す。睦月はお金を入れて、新発売の紅茶を選んだ。これ美味しかったよ、と言っていたのを忘れる私ではないのだ、とポチっとボタンを押す。
押すと同時に、ドオンという凄い音がした。
見れば、車が事故を起こして歩道に乗り上げていて、数メートル先に音羽が血まみれで倒れている。地面は彼女の血だまりができ始めていた。辺りから悲鳴が上がり、睦月は叫びながら走り寄った。
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