10人が本棚に入れています
本棚に追加
教会には懺悔室というものがある。懺悔とは言っているが正確には告解という。信者が司祭に自分の罪を告白する小部屋だ。教会の入り口とは別に入り口があり、誰かとすれ違うこともない。部屋には壁があり司祭と信者の顔を合わせることもない、プライバシーが守られている。
懺悔、といっても皆人生相談と愚痴に来るものだ。司祭はカウンセラーのような役割となっている。
私は不倫をしました、友人を裏切りました、取り返しのつかない嘘をつきました、と本当に真剣に受け止めなければいけないものもある。
信者は告白することで神に赦しをもらうのだ。司祭にとってはとても大変だが真剣に取り組まねばならない大切な事。しかしこの教会の司祭は疲れ切っていた。
「迷える子羊よ、ここに罪を告白しなさい」
「人を殺しました」
「ガチの罪じゃねえか、迷ってる暇あったら警察行け」
「え、許してくれないの?」
「司法も神も許さん、自首しろ通報すんぞ」
「えー」
何故、ここの住民は皆ちょっとおかしいのだろう、こんなんばっかじゃん、とため息の毎日だ。もうちょっとこう、可愛らしいのないのか。
「迷える子羊よ、ここに罪を告白しなさい」
「お花を見つけました」
声からして子供だ、女の子。そうそうこういうの可愛い、ほっこりする。
「くさかったから全部燃やしちゃったんですけど、かみさまはゆるしてくれますか」
「教会の裏の畑放火したのテメエか、絶対許さねえからなクソガキ」
まずモラルと倫理が著しく低い、低いと言うかむしろ無い。子供でさえこんな感じだ。あまり頭を使わない内容の告白にしてほしい。
「迷える子羊よ、ここに罪を告白しなさい」
「パンツ何色?」
「男が男に聞くんじゃねえよ串刺しにされてえか」
「怖いよ、ちなみに俺は黒ね」
「聞いてないし聞きたくもないし何しに来たんだ」
冷やかしはご遠慮ください、と扉に貼り付けてやろうか。教会本部から厳重注意されたことあったからやらないが。
「迷える子羊よ、ここに罪を告白しなさい」
「お腹がすきすぎて、さっき冷蔵庫からサラダチキン盗みました」
「教会の?」
「正確に言えば司祭の」
「お前死刑」
司祭のいう事か、それ。
懺悔室だって言ってんだろ懺悔しに来い、いやシャレにならん懺悔は困るんだけど。そんな事を考えていると次の馬鹿……信者が入ってきたようだ。
「迷える子羊よ、ここに罪を告白しなさい」
そう言うと、相手は黙ったままだ。これは久々にガチなやつじゃないだろうか、と足を組んでだらーんと座っていた司祭は姿勢正しく座り直す。こういう時は急かしてはいけない。相手がしゃべりたいとき、しゃべりたいようにしてもらうのだ。
「……迷子です」
相手は若い女性、聞いたことのない声なので初めて来た信者のようだ。しかしその前に一つどうしても言っておかなければ。
「迷える子羊ってそういう意味じゃなくてね?」
「いえ、本当に迷ってしまって。どうやって生きようかと。その原因となったのは、私のある一つの罪です」
きた、久々にガチなやつ。どうか殺人強盗放火詐欺監禁私刑呪いじゃありませんように、と十字を切る。
「罪ですか。それはどんな?」
「私が美しすぎるが故」
うん、そっか。そういう系? あーどうしようこれ。司祭は真剣に悩み始める。
最初のコメントを投稿しよう!