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1.美味しそう、美味しそう、と頻繁に言われます。
ゴトン。
振り向けば、一瞬前まで隣を歩いていた友人の姿がない。ああ、またか、またなのか、と路上に散乱した制服の上着とスカート、シャツ、コート、革靴、学生鞄を見下ろした。
「ごめん!」
いやいや、ごめんって。そんなの口先だけで、本当は悪いだなんて微塵も思っていないでしょ。あーあ。またやっちゃった、テヘペロくらいにしか思っていないはずだ。
「誰かに見られなかったかな」
周囲を気にするような声が足元で響く。それがもう、いかにもわざとらしく響く。
「まあ、見られたら見られたで仕方がない、っていうか、どうにでもなるから良いんだけど」
――ほらね、やっぱりそう。
声が聞こえた辺りにしゃがみ込み、路上のシャツを指先でつまみ上げると、その襟元からぬるりと一匹の蛇が顔を覗かせた。
白い蛇だ。胴は人の腕ほどあり、体長は大人の身の丈ほどある。
この蛇の姿を見る度に思う。夢だったら良かったのに――。
蛇の腹は新雪のように、ただただ白いが、同じく白い背にはまるで金糸で施した繊細な刺繍のような鱗が隙間なく生えていて、蛇が肢体をうねらせる度に水面の煌めきのようにキラキラと輝いている。
これを夢で見たのなら……。
(夢で見たら確実に金運が上がる! 間違いない‼)
白蛇が夢に出てきたら金運がアップするというのは、夢占いではかなり固い。そして、おそらく、今、目の前にいる白蛇のようにキラキラと美しい白蛇であるのなら、金運アップどころか、金運爆上がりするのではないだろうか。うん、絶対そう。爆上がりの億万長者まっしぐらだ。
しかも夢であるのなら、蛇に触れる必要がない! ただ、夢に見ていればいいのだ。
ところが、これは現実で、残念なことに友香(ともか)は、この蛇を持ち帰らなければならなかった。
白蛇の黄金色の丸い瞳に見つめられながら散らかった衣服を掻き集め、片腕に抱え込むと腰を上げる。
「だって、寒いし!」
「冬だからね」
他の言葉も、主に文句が喉元まで出かかっていたが、それをぐっと呑み込んで素っ気なく答えてやった。そして、鞄と靴を拾い上げ、忘れ物はないかと見回しながら最後に白蛇を鷲掴みにした。
ああ、お父さん、お母さん。あなたたちの娘は真顔で蛇を鷲掴みにする娘に成長しましたよ。
あり得ない。普通に暮らして、普通に成長していたら、十四歳の少女が蛇を鷲掴みにできると思う?
感触は弾力のあるビニールホース。そう、これはかなり太めのビニールホースなのだと思い込もうとしていた日々は、もはや遥か昔。初めてこの蛇と出会った頃のことである。
きゃあ、蛇! こわーい‼ などど言っていられたのは初回のみ。その初回すら、やるしかない状況に追い込まれた。つまり、この蛇を鷲掴みにするしかないという状況だ。
そんでもんって、ついでにマフラーにもしちゃうぞ。――って、心も強く逞しく成長しているのである。
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