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小型犬のようなふわふわ感はない。どちらかと言うと、硬く、ごわごわした手触りだ。だけど、一度触り始めると、ずっと触っていたくなる手触りで、ぽかぽかと日向の匂いまでしてきて癒されてしまう。
この妖狼。『先詠』という呼び名を持つ、先詠神社の主である。
神社の主? っていうことは、神様っていうこと? いやいや、違う。狼の妖怪だ。つまり、先詠神社とは、神ではなく、妖怪を祀っている神社なのだ。
「そう言えば、昼過ぎだったかしら? 踏切の方に向かって救急車が走って行ったわよね?」
「騒がしかったな」
うんうんと華月が美月の言葉に頷く。
「飛び込みかしら? え、でも、あんな単線で、しかも、特急も来ないような線路で飛び込む?」
「しかも、駅近の踏切で」
「そうよ、駅に近いんだからブレーキの掛かってる状態か、走り初めでスピードの出ていない状態の電車でしょ? 飛び込む?」
「そしたら、飛び込みじゃなくて、単に踏切が待てなかったんじゃない?」
夢月が口を挟むと、美月が夢月に振り向いて肩を竦める。
「あの踏切、すぐ開くじゃない。せいぜい二分くらいでしょ、閉じてる時間。二分くらい待てるでしょ」
「めちゃくちゃ急いでいたとか?」
めちゃくちゃ急いでいて、閉じていた踏切内に押し入って電車に跳ねられてしまったのではと夢月が言う。
「もしそうなら、あんなところで不運すぎるわ」
ちょっと待てば安全に通れるものを、と。
「もしかしたら、自分の身に何が起きたのか分かっていないのかも……」
「有り得るわね」
「で、藁にも縋る思いで友香ちゃんに付いてきたってわけだ」
白蛇三兄妹の視線が一斉に友香に集まる。
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