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妖怪には美味しそうと言われる友香だが、霊には暖かで淡い光のように見えるらしい。
もうこれは生まれ持った体質で、どうすることもできないものなのだが、おかげで幼少期からありとあらゆるモノをお持ち帰りしてきている。
「だとしたら、しつこく待っていそうだよね」
「待ってそう。待ってそう」
「待たれると、友香ちゃん困るよね?」
「喰っちゃう?」
わざとらしく、ニヤリと笑う兄と弟。
「霊って、食べた後お腹ゴロゴロするよね」
「消化に悪いんじゃない? 私は嫌よ、人の霊は食べない」
人でなければ食べるんですね、お姉様。
「あのう。とにかく神社の中には入れないんですよね? ここにいたら安全ですよね? 今日は泊まらせて頂いて、明日ももし待たれていたら、その時に考えます」
喰う喰わないの妖怪ならではトークを妨げて、きっぱりと言うと、そうねと美月が夢月の傍らから立ち上がる。
「夕食、何にしようかしら? 友香ちゃんのために張り切って作っちゃう。華月も手伝ってね」
「おーけー、しすたー。俺、肉が食べたいな」
「鶏? 豚? 牛?」
「鶏かな。皮をカリカリにして焼いて食べたい」
「良いわね」
双子が台所へと移動しようとしていた時だ。妖狼の耳がピクリと跳ねるように動いた。と同時に三兄妹の動きが一斉にピタリと止まる。
え? なに? なになになに? 何事?
彼らの顔を順番に見渡すと、すぐ隣に座る夢月が驚きを隠せない声を漏らす。
「入ってきた」
「え?」
「あいつ、入ってきた!」
すくりと夢月が立ち上がる。そして、視線を右に左に動かして、目に見えないものの気配を追う。
「あり得ない。あいつ、すごいスピードでここを目指して移動してる」
「どういうこと?」
「分からない」
明らかに夢月は戸惑っている。
双子の方を見やれば、双子も訳が分からない様子だ。
『来たぞ』
妖狼が短く言った時、ガラガラと玄関の引き戸が開けられた。
「邪魔する」
その声は少女のものだった。聞き覚えがある。
みんなで顔を見合わせ、まさかと思いながら、ばたばたと玄関に移動すると、皆が皆、予想していた通りの少女が土間に立っていた。
「落ちていた」
これ、と少女が片手に持ち上げて見せてくれた物は、ボロボロの黒いスニーカーだった。
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