1.美味しそう、美味しそう、と頻繁に言われます。

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「前はポケットに入るくらいの大きさだったのに」 「すくすく育って、すみませーん」  首に巻き付いた白蛇がからからと笑う。実際、ポケットに入る大きさだったのは幼稚園に通っていた頃までの話だ。小学校高学年になった頃にはランドセルにも入らなくなり、ずっと手に握りしめているか、腕もしくは首に巻き付けるしかなくなっている。 「商店街に入る前で良かったね。たぶん誰にも見られていないと思う」  まあ見られたところで……と思いつつ、友香も周囲を気にするようなことを口にして、中学校へと戻る道を振り返り、さらに住宅街を見渡すと、白蛇は頷くように丸い目を瞬かせた。  住宅街を駅に向かって進むと、こじんまりとした店が並ぶ昔ながらの商店街がある。つい四日前までの商店街は赤と緑の電飾でキラキラ輝いていたのだが、去って行く年に急かされるようにそれら電飾は撤去され、代わって、やってくる年を迎える準備が着実に進んでいる。まるで四日前とは別の場所のようだ。  そんなことを思いながら商店会の始まりの店――写真屋さんの前を通り、豆腐屋、洋品店、そして、パン屋を過ぎると、オレンジ色の屋根の駅舎が見えてくる。そのすぐ横に踏切があり、駅前の小さなバスロータリーを回り込んで踏切を渡ると、つい数年前にできたコンビニ、その向かい側に交番があり、再び住宅街が始まり、その中に自宅があるのだが、パン屋を過ぎたところで不意に白蛇が頭を起こし前方を睨んだ。 「この道はダメだ。引き返そう」 「引き返す? 踏切を渡ったら、あと少しで家なのに?」 「またお持ち帰りしたいの?」  うっ、と言葉を詰まらせて歩みを止めると、白蛇がしたり顔になったような気がした。――実際のところ、蛇なので表情は分からない。 「公園まで戻って消防署の方に曲がろう。そんで、トンネルをくぐる」 「ずいぶん遠回りじゃない。それに、あのトンネル、暗くて怖い」 「お持ち帰りよりマシじゃん」  でも、と口ごもった。トンネルも嫌だが、とにかく早く家に帰りたいのだ。友人が蛇になってしまうほど寒い。自分だって同じくらいに寒い。なれるもんなら、イモリにだって、ヤモリにだってなれちゃうくらいに寒いのだ!。  日暮れも早く、東の空から広がった藍色はすでに西の空をも染めつくしている。商店街には街灯がつき、商店街を行く人々は皆、足早に帰路を目指していた。  第一、蛇を首に巻き付けながら長時間うろうろしたくない。――うん、これだ。これが一番の理由だ。蛇から一刻も早く解放されたい。
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