1.美味しそう、美味しそう、と頻繁に言われます。

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「ねえ、目を合わせなければ大丈夫じゃない?」 「さあね」  駅舎を横目にバスロータリーを回り込んで踏切へと歩き進む。  この踏切に電車が通るのは、朝の通勤通学ラッシュ時であっても十二分に一本だ。駅周辺以外は単線で、四両編成で走っている。利用客もさほど多くなく、常に座って利用できる電車だ。  そんな電車なので、踏切の方も閉まっている時間よりも開いている時間の方が断然長く、閉まったと思ってもすぐに開き、踏切自体も短く、すぐに渡り終えてしまう。  だからこそだ。すぐ渡り終えてしまえるのだから大丈夫なのではないかという思いがある。  さっと渡って、ささっと家に帰ろう。うん、そうしよう。 「どこにいるの?」  目を合わせてはならないモノの場所さえ教えて貰えれば、それを見ずに済むかもしれない。きっと見なきゃ大丈夫なのだ。  踏切に入る直前から視線を伏せる。  そして、そのまま足元だけを見て進もうとした、その時、踏切の脇に転がったスニーカーが友香の視界に飛び込んできた。  踵を踏み潰したボロボロの黒いスニーカーだ。しまった、と思った時にはすでに遅い! 今朝通った時にはこんなところにスニーカーなんて転がってなかった!  ゾッ。  全身の肌が粟立つ。冬の寒さとは異なる冷気を背筋に感じて、再び足が止まった。いや、止まらざる得なかった。 「やばい。やばい。やばい」 「うん、面倒なことになった」  白蛇の呆れ声が響き、早くも後悔した。 「やっぱり引き返そう」 「ダメだ。もう遅い。こうなったら突き進むしかない。絶対に後ろを振り返るな。あと横も見るな。顔を上げるな。足元だけを見ていろ」  蛇の言葉に頷いて、一歩また一歩と歩み出した。 三歩、四歩、歩き進めれば、あとは速足で踏切を突っ切る。早く。早く、早く。可能な限り足を大きく踏み出し、可能な限り足を速く動かした。  あと少し。もう少しで踏切を渡り終えるというところで、両足が浮き立つような、力が抜けていくような感覚に襲われた。  ――何かいる。  気配はすぐ隣。擦れ違うような距離だ。  足元だけを見て突き進んでいるはずなのに、その姿が目の前にパッと浮かび上がった。男だ。
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