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渡り廊下や縁側、どこからでも中に入ることはできたが、建物に沿って砂利道を歩き、きちんと玄関からお邪魔することにした。
ガラガラと音を立てながら引き戸を開ける。この引き戸の鍵は掛かっていたためしがない。無用心この上ないが、どこからでも入れる家なのに玄関だけ鍵をかける意味はないだろう。
「お邪魔します」
土間から奥に向かって声をかけ、靴を脱いで上がると、首もとで白蛇が、ただいま、と呟くように言った。そう、ここが夢月の自宅なのである。
幼い頃から出入りしているため、この家のことは自分の家のように把握している。居間に向かうと、誰の姿もなく、部屋が冷えきっていたので、エアコンと電気ストーブの電源を入れた。
そして、ストーブの真ん前に白蛇を置く。ようやく首や肩が蛇の重みから解放されて、憑き物が落ちたかのように体が軽くなった。
白蛇の傍らに座り込んで、しばらく様子を眺めていると、充分に暖を取れたのだろう、白蛇はその輪郭を歪ませ始めた。白蛇になるのも一瞬だが、白蛇から戻るのも一瞬だ。歪んだ輪郭は大きく膨らみ、やがて人の姿になった。
自分と同じ十四歳の少女だ。いや、少女のはずなのだが、丸みも無駄な肉もない肢体は、少女というより少年っぽく、胸にはまったく膨らみがない。
では、少年なのかと言うと、少年にしては線が細い。十四歳の少年ならば、個人差はあるにしても筋肉が付き始め、体は硬く、がっちりと大きくなっていくところである。顔立ちも少年にしては優しく、色素の薄い髪が緩く波打って細い首を隠す程度に伸ばされている。
中性。――そう、まさに中性。少年でもあり、少女でもある。もしくは、少年でも少女でもない無性という言葉が夢月には当てはまっていた。
そして、瞳は黄金色。白蛇の時と同じ色の瞳で、黄水晶(シトリン)のように澄んでいる。
と、その時。階段を降りてくる音が廊下から響き、間もなく女性が声と共に姿を現した。
「友香ちゃん来てるでしょ! またお持ち帰りしてきたの? ――あれ? なんで制服? もう通知表を貰って帰ってきたじゃない? あらあら、うちのムッちゃんは真っ裸だわ。なんで?」
「部活」
「部活?」
夢月が短く答えると、彼女は小首をかしげる。その弾みでふわりと広がった色素の薄い髪が左右に揺れてから再びふわりと背中を覆い隠す。夢月と同じ黄水晶の瞳がキラリと輝く。陶器のような色の白い肌に、しなやかな肢体は、全体的には細いが女性的な丸みを帯び、膨らむべき部分ははっきりと大きく膨らんでいる。
夢月と似た整った容貌をしているが、こちらははっきりと女性――それもかなりの美女と分かる。夢月の姉、美月(みづき)である。
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