1.美味しそう、美味しそう、と頻繁に言われます。

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 そう、恐ろしいほどの美人で、白糸のような銀髪を腰よりも長く伸ばしている。その髪は恐ろしく真っ直ぐで、おそらく櫛を通そうとすれば、その櫛はそのままストンと上から下まで落ちるに違いない。そして大抵、無地の白い和服を着ている。夜中に柳の木の下に立っていそうな格好だ。  と、ここまでの説明で分かる通り、夢月たちのお母さんは人間ではない。仮に人間だとしたら、髪の手入れに魂を注ぎつつ、お化け屋敷でバイトをしている人だ。  いや、むしろお化け屋敷のバイトであって欲しかった。が、夢月のお母さんは人間ではなく、白蛇の妖怪である。かなり昔から生きている大妖怪らしく、妖怪の中では力が強いらしい。うん、喰われそうになれば誰でもその強さが分かる。  というわけで、華月、美月、夢月の三兄妹も純粋な人間ではない。理解に苦しむところだが、実はこの三兄妹は三つ子である。だから、顔が金太郎飴のごとく同じなのだが、三人とも妖蛇のお母さんが卵で産んだ。それはそれは白玉のように真っ白で、ちょっと楕円形な綺麗な卵だったらしい。  で、理科の実験かとツッコミたくなる話なのだが、夢月たちのお父さんが、ひとつを日向に、ひとつを日陰に置いたのだという。爬虫類の多くは性染色体ではなく、卵の置かれた温度で雌雄が決まるらしい。カメやワニがその代表だ。蛇では、そのように雌雄が決定する種類は見付かっていないそうだが、そんな理科実験の下で孵化したのが、華月と美月だ。見事に雌雄が分かれてお父さんは喜んだらしい。  そして、何を思ったのか、残るひとつは冷蔵庫に入れてゆっくりと時間を掛けて孵化させたらしい。それが夢月である。そんな孵化の仕方をしたせいなのか、夢月は卵の中に性別を置いてきてしまったようだ。戸籍上では男にしてあると聞いているけれど、普段は美月のお下がりである女子の制服を着ていることが多かった。  いやぁ、もう、なんのこっちゃと言ってくれていい。私もよく言う。なんのこっちゃ!
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