夏の夜の公園

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 ふと、「ジャーー」と水が流れる音が聞こえた。  音のするほうへ顔を向けると、東屋の隣にあった水飲み場の蛇口から勢い良く水が出ていた。  昼間子供たちが水飲み場を使って、蛇口を閉め忘れたのだろうか。  いや、でもさっきまで水が出ていなかったような。  不思議に思いながらも、私は蛇口を閉めようとその場を立った。  しかし、今度はどこからか無邪気に笑う子供の声が聞こえた。  ハッと辺りを見回すが、子供の姿はない。  そもそも、夜の九時過ぎに子供が外を出歩くなんて考えにくい。  それなのに、子供たちの声がどんどん増えていくのを感じた。  ブランコが揺れる。  滑り台を駆け上がる足音が聞こえる。  シーソーがガタンゴトンと音をたてる。  無人の公園なのに、まるで誰かが遊んでいるかのように騒がしさを感じた。  ふと、街灯の下で黒い影が動いているのを見た。  その黒い影が公園内を駆け巡る。私が気づいていなかっただけで、もうすでに多量の影が動いていた。  まるで子供の影のようだ。  止まない無邪気な声に私は震えが止まらなかった。  幸い、影とは距離がある。  このまま見つからないうちに家に帰ろう。  そう思ってそろりと公園に背を向けた時、私の耳元で子供の声がはっきりと聞こえた。 「――お姉さんも、あーそぼ?」  幼気な声に全身が総毛立つのを感じた。  逃げなきゃ、ここから逃げなきゃ。  あまりの恐怖に、私は振り返りもせずに一気に走り出した。 * * *  それから、帰り道に車に轢かれたり、変質者に襲われたりなんてことはなく、私は無事に家にたどり着いた。  ただ、汗だくの私を見て旦那は不思議そうにしている。  けれども、いくら旦那でも先程の出来事は話す気になれなかった。  話したところで信じてくれないだろうし、解決策も出てこないことは目に見えていた。  変なモノを見てしまったからには、その後も取り憑かれたり、呪われたりするものかと思ったが、意外にも平和に日々を過ごせていた。  一応霊が見える姉にも相談してみたが、返ってきたのも「なんもなければ大丈夫なんじゃない?」と呆気ない答えだった。 「幽霊なんてその辺にいるんだからさ。その子たちも純粋に遊んでいただけなんだよ、きっと」  姉はその場にいなかったのに、彼女の言うことに妙な説得力があった。  確かにあそこにいた子供たちは怒りも恨みも感じず、みんな楽しそうに笑っていた。  本当に、ただあそこで遊んでいただけなのだ。  ――子供たちが公園で遊ぶのは、なにも昼間だけではない。  そんなことを思わせた出来事だった。  その日を境に、私は夜の散歩をやめた。 【夏の()の公園】 終
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