2/3
前へ
/113ページ
次へ
 薫は、頭を抱えた。  こんなことは、もちろん初めてだった。  行きずりどころか、薫は英司以外の男と関係を持ったことはない。 「………」  ──いや。そのつもりで店に行ったんじゃないか。誰でもいいから、抱かれるつもりだった。それが現実になった途端にダメージを受けるなんて、どうかしている。 「……帰ろう」  落ち込むのは家に帰ってからだ。こんなところにいても、仕方がない。  ベッドサイドの時計を見ると、もう11時を回っていた。薫は重い体にむち打って、ベッドから降りた。  クローゼットを開けて中を見るが、服はなかった。そんなに広くはない部屋のあちこちを探してみるが、ない。トイレやバスルームも見たが、なかった。  次第に怒りが込み上げる。  一体、何の嫌がらせだ。 「ふざけんなよ」  仕方なくバスローブを羽織って、サイドテーブルのメモを掴んだ。鞄から、スマートフォンを取り出す。  会社を出た時に切ったままの電源を入れると、途端にブルブルと振動してメッセージの着信を知らせた。英司からだ。 『帰ったら連絡する。いい子で待ってるように』  送られた時刻的に、飛行機に乗る前だろう。喉が、ぎゅっと締まる気がした。 『もう終わりにする。元気で』  それだけ返信すると、薫は英司をブロックした。  メモを見ながら、櫻井に電話をかける。スリーコールで、相手は出た。 『はい、櫻井』 「もしもし」 『あ、本城君? やっと起きたの?』 「服は?」 『え?』 「俺の服。ないんだけど」 『第一声が、それ?』 「帰れないんだけど」 『うん。クリーニングに出したからね。お昼には戻るから、そこで待ってなさい』 「は?」 『本城君、まだ寝ぼけてるの? 酷い声だよ。シャワーでも浴びて、すっきりしなさい。じゃ、あとで』 「え? あ、待てよ!」  一方的に、電話は切れた。 「何だってんだよ!」  かけ直す気にもなれず、スマートフォンをベッドに投げた。持っていたメモを握りつぶして、ゴミ箱に投げる。 「………」  しばらく立ち竦んだ薫は、頭をがしがしと掻いて、バスルームへ向かった。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

204人が本棚に入れています
本棚に追加