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 目覚めた瞬間、薫は激しい頭痛に見舞われた。 「う……」  見覚えのない部屋をぼんやりと見つめる。白っぽいカーテン越しの陽差しが、目にしみる。 「……どこだ、ここ。今、何時──あ、会社!」  がばりと起き上がり、あまりの気持ちの悪さに蹲る。頭痛に加えて吐き気が襲ってきた。 「………」  顔をしかめてしばらくじっとやり過ごしている間に、嫌な現実を思い出した。  会社は、昨日辞めた。  英司は、新婚旅行だ。  昨日会社で、皆と共に拍手で英司を見送ってから、薫は上司に退職願を出したのだ。驚いて引き止める上司に頭を下げて、今月末の退職を受理してもらった。  月末までは溜まっていた有給を消化するので、実質もう出社しない。退職に向けての仕事の整理は、この数日でできる限りしたつもりだ。自分が抜けても、業務に支障はないだろう。  薫は、大きく息を吐いた。  そして起き上がろうとして、自分が裸なことに気が付いた。下着すら、身につけていない。 「え、何で?」  やけに整ったきれいな室内に、ようやくここがホテルの一室だと理解する。 「……服は」  周りを見ると、ソファに薫の鞄が置いてあったが服は見当たらない。代わりに、サイドテーブルにメモが1枚、置いてあった。 『──起きたら連絡するように。 櫻井』  メモには、電話番号も記されていた。  薫は、そのきれいな文字をじっと見つめる。 「……櫻井って、誰?」  首を捻って考えるが、分からなかった。 「ま、いっか」  メモをサイドテーブルに戻し、立ち上がろうとして、薫は体に違和感を覚えた。 「っ、え?」  違和感を感じる。主に、後ろに。  何かが入っていたような、緩められたような……そう。端的に言うと、した、後のような。  薫は昨日の自分を必死で思い出す。  いつものバーに行って、したたかに飲んだ。茶髪の、チャラい奴に絡まれて……そうだ、誰かに助けてもらった気がする。それから── 「………」  薫は、口元に拳を当てた。  俺はそいつと、寝たのか?  行きずりの、初めて会った、知らない奴と……?
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