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◆
目覚めた瞬間、薫は激しい頭痛に見舞われた。
「う……」
見覚えのない部屋をぼんやりと見つめる。白っぽいカーテン越しの陽差しが、目にしみる。
「……どこだ、ここ。今、何時──あ、会社!」
がばりと起き上がり、あまりの気持ちの悪さに蹲る。頭痛に加えて吐き気が襲ってきた。
「………」
顔をしかめてしばらくじっとやり過ごしている間に、嫌な現実を思い出した。
会社は、昨日辞めた。
英司は、新婚旅行だ。
昨日会社で、皆と共に拍手で英司を見送ってから、薫は上司に退職願を出したのだ。驚いて引き止める上司に頭を下げて、今月末の退職を受理してもらった。
月末までは溜まっていた有給を消化するので、実質もう出社しない。退職に向けての仕事の整理は、この数日でできる限りしたつもりだ。自分が抜けても、業務に支障はないだろう。
薫は、大きく息を吐いた。
そして起き上がろうとして、自分が裸なことに気が付いた。下着すら、身につけていない。
「え、何で?」
やけに整ったきれいな室内に、ようやくここがホテルの一室だと理解する。
「……服は」
周りを見ると、ソファに薫の鞄が置いてあったが服は見当たらない。代わりに、サイドテーブルにメモが1枚、置いてあった。
『──起きたら連絡するように。 櫻井』
メモには、電話番号も記されていた。
薫は、そのきれいな文字をじっと見つめる。
「……櫻井って、誰?」
首を捻って考えるが、分からなかった。
「ま、いっか」
メモをサイドテーブルに戻し、立ち上がろうとして、薫は体に違和感を覚えた。
「っ、え?」
違和感を感じる。主に、後ろに。
何かが入っていたような、緩められたような……そう。端的に言うと、した、後のような。
薫は昨日の自分を必死で思い出す。
いつものバーに行って、したたかに飲んだ。茶髪の、チャラい奴に絡まれて……そうだ、誰かに助けてもらった気がする。それから──
「………」
薫は、口元に拳を当てた。
俺はそいつと、寝たのか?
行きずりの、初めて会った、知らない奴と……?
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