飛んで火に入る熱帯夜の俺

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「ずっと好きだった。笠原のこと。でも、笠原はいつでも隙がなくて、特定の相手がいるんだと思った。今日はなぜか隙だらけだったし、悲壮感を背負ってたから……。励ましてやったらもしかしてって、弱みにつけ込もうとしてた。ごめん。僕、どうかしてた。帰るね」  吉見が爽やかに笑った。そこに悲しみがにじんでいるように見えるのは、透の欲目だろうか。  ――俺がこんな風に考えることを見越して、巧妙に仕組まれた罠だとしても。 「待ってください!」  歩みを早め、透を置いて行こうとした背中に声をかける。  ――逃してしまうのは惜しいと思わされてしまった。  吉見がゆっくりと振り返った。 「うち、クーラー壊れてて」 「さっき聞いた」  困惑気味の声が聞こえる。 「暑すぎて昨日も寝苦しくて」 「うん、だろうね」 「今日も昨日と同じくらい暑いし、きっと寝つけないと思うんで、吉見さんちに泊めてください」  一拍おいて、言葉が返ってくる。 「……いいの?」 「いいです。うちでも吉見さんちでも、どうせ寝れそうにないんで」 「正気ですか……?」 「何で急に敬語? 誘ってきたのはそっちでしょ。俺が話に乗ったら引くなんて、ずるいですよ」  罠だとしてもいい。術中にはまったのだとしても悔しくない。一目惚れした相手と一夜を過ごせるなら。  吉見の胸元に飛び込んだ。
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