飛んで火に入る熱帯夜の俺

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「お疲れさま。笠原、まだ残ってたんだ」  一日も終わりかけだというのに、晴れやかな朝を思わせる声が背後から聞こえて、口の中で「お疲れ様です」と言いながら振り返る。案の定、吉見(よしみ)(けい)だった。  今日は炎天下で一日外回りで、どこか服装が乱れていてもおかしくないはずなのに、ワックスでオールバックにされた髪は後れ毛一本なく、ワイシャツの袖は二回折り上げた程度で、ネクタイもきっちり上まで閉められている。出社した時と同じ爽やかさをまとい、透に笑顔を向けていた。  吉見は透と同い年だが、高校を卒業してすぐに入社したため、大卒の透よりも四年社歴が長かった。  同い年の上司。最初は戸惑ったが、入社して五ヶ月経った今はもう慣れた。 「今日、急ぎの仕事あったっけ?」 「急ぎではないのですが、来週のために終わらせておこうかと思いまして」  はは。乾いた笑い声を出しながら、頭をかいてみせる。さすがに、「自宅のエアコンが壊れたから、ここで涼んでいるんです」とは言えない。
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