飛んで火に入る熱帯夜の俺

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 吉見の行きつけだという、会社近くのラーメン屋に入る。カウンター席に通され、透は吉見の右側に座った。道すがら「ここは醤油ラーメンがおいしいんだよ」とすすめてきたからそれを頼んだら、吉見は味噌ラーメンを注文した。 「醤油がおすすめじゃなかったんですか」  透が少し非難を込めた目で吉見を見ると、吉見はおしぼりで手を拭きながらくすりと笑った。 「おすすめだよ。でも、味噌もおすすめ。この店は何食べてもうまいの」  なんだよ、それ。透はもごもごと呟きながら水に口をつけた。 「すみません。あと、唐揚げ、餃子一皿ずつ。それと瓶ビール一本ください。あ、グラスは二個でお願いします」  厨房に戻りかけていた女性店員を呼び止めた吉見が、よどみなく注文する。心なしか、女性店員の目がハートになっているような気がする。  ――そうだよな、吉見さんは爽やかだし、かっこいい。悔しいけどタイプだ。  入社して初めて見た時から、透は吉見から目を離せなくなった。特に手首の形が好みだった。だからすぐに左の薬指を確認した。銀色のリングが鈍い光を放っていた。透には大学時代から付き合っている恋人もいたし、好きになる前に既婚者だと分かって良かった、と胸を撫で下ろしたのだ。
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