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ほとんどカウンターテーブルに突っ伏しながら、それでも透はビールの入ったグラスを手放さなかった。
「なんでフラれちゃったの?」
吉見からの問いに、ビールをぐいっとあおってから答える。
「なんかぁ、クーラーが壊れて。暑苦しいんだって。おれも、部屋も」
――なにかがおかしい。なぜこんなことを上司に喋っているんだろう。あ、タメ口きいてる。ま、いっか、同い年だし。
ぐるぐる。思考も視界も回る。そんな中、吉見の顔がやけにくっきりと見えた。
――やっぱかっこいいな。
「そうなんだ。会社での笠原はクールだから、熱い面があるなんて意外だな」
「自覚ないけど、おれ、酔うとキス魔になるらしいんです。それが嫌だったみたい。クーラー壊れてんのにくっつくな、暑苦しいって怒られて、それで、別れよってなって。告白もおれからだったし、あいつはおれのこと好みじゃないってずっと言ってたし、いずれこうなる運命だったんですよ」
自分でも何を言っているかよく分からなくなっていた。ぐいっ。顔が持ち上げられた。吉見の手が透の顎にかかっていた。弧を描いた目と口が、透をとらえて離さなかった。
「へえ。してみてよ」
「なにを?」
「キスを」
「だれに?」
「僕に」
吉見は透を見つめたまま動かない。なまめかしいほどの笑みに飲み込まれそうになる。
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