私の初恋

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あっ! 手にしていた浴衣用の籠バッグが何かに引っかかり、足を止めた。 と、同時に「いたっ!」という小さな子供の声が聞こえる。 先程、地元の花火大会が終わり、私は、芋洗いのような人混みの中を歩いていた。 この春卒業した中学の同級生たちと花火大会に来て、みんなで帰路に着いたところだった。 けれど、最後尾をみんなについて歩いていた私は、その場で足を止めた。 見ると、人にもみくちゃにされながらお父さんに手を引かれて歩いている浴衣姿の女の子の髪の飾りが、籠の目に引っかかり、女の子は眉を寄せて涙目で頭を押さえている。 「あ、ごめんね!」 私は、女の子に謝ると、急いで外そうとするけれど、籠の目に知恵の輪のように入り込んでいて、なかなかうまく外せない。 すると、小さな子を抱いて女の子の手を引いていたお父さんが、口を開いた。 「ここでは迷惑になるので、ちょっとこっちへ」 私は言われるままに、女の子の頭が痛くないように気をつけながら、人混みを抜けて小さな薬局の前の駐車場にやってきた。 そこで、お父さんは抱いていた子供を下ろし、私の籠バッグに手を伸ばすと器用にその髪飾りを外してくれた。 「ありがとうございました!」 私はぺこりと頭を下げ、さっきの雑踏へと戻る。 けれど、そこにはもう同級生たちはいない。 私は急いで追いつこうとするけれど、人波はゆっくりとしか流れなくて、前に進めない。 しばらく行くと、裏路地に入る分岐までたどり着いた。 車は侵入禁止の細い路地は、地元の人しか通らないから、大通りに比べると幾分歩きやすい。 でも…… 夜道を1人で歩くなんて、生まれて初めてで、なんだか怖い。 前にいる人も、後ろにいる人も、なんだか悪い人のように感じてしまう。 みんなと歩いてる時はそんなこと思わないのに。 みんな、今、どの辺りにいるんだろう。 私は、道端で足を止めると、バッグの中からスマホを取り出した。 私は今日誘ってくれた未来(みく)に電話をかける。 ……かけるけれど、繋がらない。 この雑踏の中じゃ、スマホが鳴ってても音が聞こえないのかもしれない。 私は女友達の何人かにかけるけれど、誰も電話に出ない。 仕方ない。 私は、スマホをしまうと、また歩き始めた。 今日は頑張って着慣れない浴衣をお母さんに着せてもらってきたから、思うように歩けない。 下駄って、なんでこんなに歩きにくいんだろう。 私はまるで浴衣や下駄が悪いかのように募るイライラを服装に向ける。 悪いのはちゃんと気をつけてバッグを持ってなかった自分なのに。
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