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花火大会の会場から自宅までは、約3㎞。
普段なら自転車で移動する距離だけど、今日は浴衣だから、それもできなくてみんなで待ち合わせて歩いて来た。
男子6人女子5人の元クラスメイト。
はっきり言って、男子とはあまり話したことはない。
幼稚園の頃から仲良しだった未来がクラスのリーダー的存在だったから、普段目立たない私も誘われて一緒に出かけたりするけど、それでもやっぱり私は後ろからついていくのが精一杯で……
だって、周りの子たちはみんな明るくて話し上手な子ばかりなんだもん。
だから、私が1人はぐれても、みんな気づかない。
普段から、私の声をあまり聞いてないから。
私は、不安な気持ちを拭いきれないまま、家路を急ぐ。
下駄の音をさせ、浴衣の裾を一歩歩くたびにハタハタとめくらせながら、裏路地を歩いていく。
すると……
「円ちゃん!」
前から、浴衣姿の男性が駆けてくる。
「長田くん!」
浴衣なのに、下駄で裾を捲り上げんばかりに息を切らせて走って来たのは、さっきの同級生グループにいた長田 智樹くん。
中学3年生の時の後期クラス委員長だった子。
「円ちゃん、いないから、心配したよ。みんなに聞いても、いつからいないか分かんないって言うし」
なんで……?
私がいなくなっても誰も気づかないと思ってた。
「何回電話しても出ないし」
えっ?電話?
私は、慌ててバッグを開けてスマホを取り出す。
未来からも長田くんからも着信履歴があった。
LINEも届いている。
「あ、ごめんなさい。気づかなくて」
裏通りとはいえ、この人の多さ。
人の声のざわめきに加え、一本向こうの通りの車の音も混ざって、夜なのに賑やかだ。
「とりあえず、みんなにはLINEしとく」
長田くんがスマホ片手にLINEするから、私も慌ててみんなとのグループLINEに謝罪のメールを送る。
私が送るのと入れ違いに届いた長田くんのLINE。
『円ちゃん、発見!
俺が送ってくから、
みんな先帰ってていいよ』
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