77人が本棚に入れています
本棚に追加
え?
私は驚いて顔を上げ、私より頭をひとつ高い長田くんを見上げる。
「さ、円ちゃん、行こ」
そう言って、長田くんは左手を差し出した。
握手……じゃないよね?
私は、どうしていいか分からなくて、その手を見つめる。
すると、長田くんは、少し前屈みになって、私の右手を握った。
「これではぐれないだろ?」
え、いや、あ、そう……だけど……
男子と手を繋いだことがない私は、右半身が硬直してどうすることもできない。
「ほら、帰ろ」
そう言った長田くんは、私の手を引いてゆっくりと歩き出す。歩き出すけど……
「あ、でも、長田くん、うちとは方向が違うよね!」
隣の小学校区だった長田くんは、中学を挟んで、うちとは反対の方角だったはず。
「私、1人でも帰れるから」
ほんとは夜道を1人で帰るなんて、怖くて仕方ないけれど、でも、わざわざ長田くんに遠回りしてもらうのは申し訳ない。
本来なら、家が近所の未来と帰るはずだったのに。
けれど……
「何言ってんの? 円ちゃんを1人で帰して、なんかあったら、俺、一生後悔しなきゃいけないじゃん。帰り道、ずっと、大丈夫かな?って心配しなきゃいけないし。大した距離じゃないから、つまんない遠慮するなよ」
そう言うと、長田くんは、いつもの優しい笑みを浮かべる。
いい……のかな?
私は、気になりながらも、それ以上、断ることも出来ず、歩き始めた。
「円ちゃん、高校はどう?」
長田くんは、いつも他の子にしているのと同じように、明るく話しかけてくれる。
「うん、だいぶ慣れたよ」
取り止めのない世間話。
長田くんとこんな風に話すのは初めてかも。
「かっこいいやつはいる?」
くすっ。
かっこいいって。
「何を基準にそう言うのかは分かんないけど、多分いるんじゃない? 何組の誰々がかっこいいって噂はよく聞くから」
高1女子が集まれば、やっぱり話題はそう言う話になる。
「円ちゃんは?」
ん?
何を聞かれてるのか分からなくて、私は首をかしげる。
「円ちゃんから見て、かっこいいと思う男子はいるの?」
……
なんて答えていいのか分かんない。
「そういうの、よく分かんなくて。変なのかな?」
みんながそういう話をしてても今一盛り上がれない。
男子が嫌いなわけじゃない。
でも、男の子を好きになるってどういうことなのかよく分からなくて、いつもあいまいに微笑んでうなずいてることしかできない。
すると、繋いでる長田くんの手にキュッと力がこもった気がした。
「いや、きっと円ちゃんは、これから好きな人ができるんだよ。相手は分かんないけど」
長田くん……
私は、隣りを並んで歩く長田くんを見上げる。
けれど、真っ直ぐ前を向いたままの長田くんと目が合うことはなくて……
最初のコメントを投稿しよう!