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透明プラスチックの隔離シールドの向こうで、ユウナは沸き立つ血の泡になってはじけて消えた。
58回目のワクチンは、彼女の命を救わなかった。
今回はダメかもしれない。
私もタケトもうすうすそれは気づいていた。
でも、結末がこんなありさまになるなんて、少なくとも私にはひどい不意打ちだった。
6床の病室。長いこと私たちは三人で過ごしてきたし、ついさっきまで確かに三人だった。
それなのに今——悲鳴じみたBEEP音を上げて動き回るロボットたちを除けば——残っているのは二人だけだ。
もしかしたら、このフロア全体で。あるいは、この病棟全体で。ひょっとしたら、この隔離衛生都市全体で、生きている人間は私たち二人きりなのかもしれない。
真っ赤に染まった隔離シールド。
血のしずくが垂れ落ちていく。
きしむ車輪の音が近づいてくる。ドアが開き、清掃ロボットらしき姿がちらりと見える。殺菌消毒剤入りの水流が噴射され、隔離シールドの赤色が洗い落とされていく。
もう一枚の隔離シールドの向こうに、タケトの顔が現れる。
静かな情熱みたいなものを湛えたそのまっすぐな瞳が私をとらえる。彼の顔が頷く。
その意味が、私にはわからない。
ただわかるのは彼が、私のようには途方にくれていないこと。何かを強く信じ、覚悟を決めていること。
その彼の意思の強さにしがみついて、私はどうにか崩れ落ちずにいられる。
だから私は、何もわからないまま頷き返す。
泣き出しそうな、気持ちのままで。
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