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ロボットたちは一生懸命やっている。
自我も意識もない彼らにそんな言い方をするのは変だけれど、ところどころパーツの抜け落ちた、錆びついた身体で、誰にも整備してもらえないまま、定められたルーティーンをこなそうと四苦八苦しているようすは、なんだか可哀想になってくる。
ロボットたちの上にはアドミンがいる。
アドミニストレータ、管理者権限を持っているのも、人間ではなくAIたちだ。
もともとは人間のアドミンがいたのだけれど、だんだん死んでいって、AIにすべてを委譲するほかなくなったのだ。
私たちの知りようのない昔の話だけれど、タケトはそんなふうに考えている。
昔、戦争があったという。
私達のPDAの基礎教育インターフェイスは、そういう歴史を語る。
そのとき生物兵器が世界にばらまかれて、大人の大半が死んだ。
生き残ったわずかな大人たちは、この街、隔離衛生都市ユーフォリアを建設して、致命的なウィルスたちからの盾とした。
大人たちは自分自身に、そして新しく生まれてきた子供たちに、つぎつぎと変異種があらわれる生物兵器を拒むワクチンを打ち続けた。
mRNAワクチン。
それは、繰り返すたびに生来の免疫力を損なう、諸刃の剣だった。
子供たちは、戦争以前の世代があたりまえにもっていた抵抗力をすっかり失った。ちょっと熱が出る程度のはずのありふれた病気でさえ、私たちの世代には致命的になった。
でも、その事実を評価し方針を転換する権限を、AIたちはもっていなかった。
老朽化と資源不足によって都市の機能が失われていくことに対しても、AIたちはなすすべを持たなかった。
そうしたことへの対応は、みんな、都市の外の誰かが決定することのはずだった。
その誰かが死に絶えてしまったのなら、地下のリアクターが燃え尽きて静止するまで、AIたちはおなじことを繰り返す以外ない。
誰のせいでもない。誰も悪くはない。
私たちはお互いに言い聞かせてきた。
それでもユウナは死んだ。
私たちは二人きりになった。
次に起こることは何だろう。
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