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私たちは機械たちの監視をうけているが、拘束されているわけではない。おそらく、機械たちにその権限はない。
監視だって、監視カメラが天井から吊り下がっているからそう思うだけで、それが生きて作動しているかどうかは私たちには知りようがない。映像が都市中枢のどこかに送られているとしても、そのデータを分析し判断する機能が生きているかどうかはわからない。
タケトはそう考えていた。
ユウナが赤いあぶくになって消える以前。
タケトはユウナに話しかけ、ユウナが私にその内容を伝え、あるいはその逆の順番で、私たちは意見と情報を交換しあっていた。
隔離シールドに耳を押し付ければ、そのすぐ向こうで話す声は、振動となって私たちの聴覚に届いた。
ユウナがいなくなった今。
タケトの声を私の耳に運ぶものはなかった。
タケトが話しているのはわかる。だけど、隔離シールドに耳を押し付けても、かすかな振動さえとどかない。
「わからない」というジェスチャーを私はして、それを見たタケトは奥歯をかみしめるような表情をした。
天井の片隅の監視カメラにちらりと視線を投げ、立ち上がるとだしぬけに隔離シールドを殴りつけた。
怒りや苛立ちの表情は見えなかった。
タケトはただ、試してみたのだ。
私たちを隔てる隔離シールドがどれほど頑丈かを。
そして、都市の監視システムがどの程度有効なのかを。
タケトは静かに拳を引いた。
暴力には似合わない、ほっそりとした白い指が、隔離シールドの表面を撫でた。隔離シールドには、傷一つ、へこみひとつついてはいないようだった。
彼はベッドに腰掛け、目をつぶり、静かに時が過ぎるのを待った。
いつまで待っても、都市中枢は何の反応も示さなかった。
少なくとも、私たちに感じられるようなことは何も。
だからタケトは、さらに大胆な行動に出た……
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