9人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
錆、壁から剥がれ落ちた塗料。そんなもので廊下の床は覆われていた。
明滅さえしない照明。天井から滴り落ちる水滴。苔。私達は、大地の底の洞窟を歩いているみたいだった。
タケトは私を、病室の外に連れ出したのだ。
病室を出てすぐの廊下はまだまともだったが、階段を上り、一層、二層と地上に近づくにつれ、荒廃どころではすまない様子が明らかになっていった。
薄々予感してはいた。
でも本当に、私達のところ以外に、明かりのついた病室は存在しなかった。生きている人間は、私達だけだった。
タケトの細い指が私の手を掴んで、確信のこもった足取りで暗い廊下を進んでいく。
彼は私に、なんのためにどこへ行くのか告げていない。
彼はただ、私の枕元まで来て、私の手を掴んで、あるき出しただけだ。
「タケト、ねえタケト、教えて、どこに行くつもりなの」
必死で速歩きしながら、私は彼に問いかける。
その手を振り払うことは、別に難しくはない。生まれたときから病室ぐらしの私と彼で、腕力にたいした差があるわけではない。
ただ私は、タケトに置き去りにされることを恐れていた。
「地上だ」
はじめて聞くタケトの声。静かで、だけど力強い。
「地上に出て、どうするの」
「隔離衛生都市を出る」
タケトは、確信のこもった声で、そう言った。
最初のコメントを投稿しよう!