夏の星座

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  錆、壁から剥がれ落ちた塗料。そんなもので廊下の床は覆われていた。 明滅さえしない照明。天井から滴り落ちる水滴。苔。私達は、大地の底の洞窟を歩いているみたいだった。    タケトは私を、病室の外に連れ出したのだ。  病室を出てすぐの廊下はまだまともだったが、階段を上り、一層、二層と地上に近づくにつれ、荒廃どころではすまない様子が明らかになっていった。  薄々予感してはいた。  でも本当に、私達のところ以外に、明かりのついた病室は存在しなかった。生きている人間は、私達だけだった。  タケトの細い指が私の手を掴んで、確信のこもった足取りで暗い廊下を進んでいく。  彼は私に、なんのためにどこへ行くのか告げていない。  彼はただ、私の枕元まで来て、私の手を掴んで、あるき出しただけだ。   「タケト、ねえタケト、教えて、どこに行くつもりなの」  必死で速歩きしながら、私は彼に問いかける。  その手を振り払うことは、別に難しくはない。生まれたときから病室ぐらしの私と彼で、腕力にたいした差があるわけではない。  ただ私は、タケトに置き去りにされることを恐れていた。  「地上だ」  はじめて聞くタケトの声。静かで、だけど力強い。 「地上に出て、どうするの」 「隔離衛生都市(ユーフォリア)を出る」     タケトは、確信のこもった声で、そう言った。 
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