第一話

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第一話

「ダメダメ、これじゃ歌にもならない書き直し」 「くそ!」 「その根性で頑張れ」 「次行くぞ、アルバム用だからな、気を抜くんじゃねえぞ!」 へいへい。  何度も書き直し、それは次のステップ、負けられるかと、二年前を思い出しては歯を食いしばっていた。  海なんて、去年も来たのに、こんなに穏やかな海、久しぶりに見たかも・・・。  海はどこへ行っても同じだと思っていた。  でも日本全国を回ると、北の海はどこか暗いし黒い。南は青くきれいだ。  ここはとある港町、この海は沖縄のようにそこまで透けて見えると俺たちは岸壁から身を乗り出して、ちゃぷちゃぷと打ち寄せる波を見ていた。  あっちいー!  なんでこんなに、砂焼けてんだ! 男たちのぎゃーぎゃー叫ぶ声が聞こえた。 目をやると、グラサンをかけこの暑い中、帽子もかぶらずワイハシャツで歩く、ガラの悪い一団。 いつの間にかそっちに行ってるし。 膝カックン。 「あ?」 「何さぼってんだよ?」  一番ガラの悪そうな煙草をくわえたマネージャー。一個上の先輩ジロちゃん。 「やくざ」 「は?なんだって?」  何でもない、行く!  高いところから砂浜にジャンプ。  あち、あちち。  焼ける、焼けると、砂浜をかけ出した。  俺たちはバンドマン、まあそこそこ稼いでもいる、そして夏は稼ぎ時だ。  今日明日とコンサートがある、出る歌手たちは全部で十二組、一グループ三曲から五曲で回していく。時間にして一組二十分ほど、そのためステージは二つ、準備もあるからな。  海に入ってもべとべとするだけで、いい思い出なんて・・・あっ?あったかも・・・?あった。と足元を見た。 何か出ている。  お気に入りの麦わら帽子をちゃんとかぶりしゃがみこんだ。 「おい、何やってんだ?」後ろから来たジロちゃんに背中をキックされた。 「なあ、砂掘るもん持ってねえ?」と前を行く仲間に声をかけた。 もってるか? 俺が持ってるかよ? ばかじゃね、なによ? と戻ってきた。 「これ・・・」指さした先には砂に埋まった空き瓶。 「お宝か?」 「まさか、メッセージボトルだろう」 「なんだ手紙か、多いらしいぞ、震災で亡くなった人とか、海外からも流れてくんだろ、ここは太平洋だからな」  フーンと言いながら、銜(くわ)えたばこで、それを掘り出し始める人。 「ワイン?」  そう思った。ペットボトルのほうがいいんじゃね?そう単純に思ったが、魚に食われるらしい。 「だから瓶ねー?ン?何語?」 みんなに見せた、フランス語じゃねという。誰もわかんないし、濡れててインクがにじんじゃってて、こんな時は鉛筆っていいよねなんて声も聞こえてくる。 それにその瓶、ワインじゃねーぞと言われた。 何だろうとみんながのぞいた。 「サイダー?」 「オー三ツ矢サイダー、古いな、まだあるのかよ」 なんて話になっていた。 「そろそろ、リハーサル始めまーす」 ウーと男たちの低い声が返事をした。
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