第一話

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砂浜には席順のようにテープが張られ、アルファベットの書かれたでっかいプレートが張られていく。 町おこしの一環で、二日またいでのコンサートが行われる。 この土地に関係ある若手のミュージシャン、それと明日は大御所と呼ばれるグループも来る。 俺達は、この県の出身者というだけで呼ばれた。 誰が? 親だそうだ、それだけ?まありがたいけどな。 過疎地の人口の数十倍の人が流れ込んでくる。 そのため、この村だけではどうにもできなくて、近隣の町も巻き込んでの開催だ。 シャトルバスに、電車も臨時便が出るという。 年老いた人たちは遠目に俺らのことを見ている。 海岸沿いにはずらりと簡易のトイレが並び、臨時の駐車場にスタッフたちも汗を流しながらの準備だ。 ホテルなんてないさびれた漁村、俺達は民宿に泊まり、スタッフたちはバスの中で一夜を明かすと聞いている、大変だよな。 そして俺たちは。 「イヤーよく来たね、みんなデカくなって」 民宿の家族は俺らのことをよく知っていた。そりゃ、小さいころ、海水浴と言ったらここへ来ていたのだからそうなるよな。 良かったよ、親の名前で早くからいい宿が取れてといったジロちゃん。 普通の家、少し広いかなってくらいで、まあ俺ら一部屋にごろ寝出来りゃいいと、二階の部屋に案内された。 「ウオー、オーシャンビュー」 オー、こんなだったかな?と思い出すが、あまりにも小さい時だったからだれ一人覚えていなかった。 それでもお世話になるのだから、写真にサインにと俺たちも忙しくしていた。 村はちょっとしたお祭り騒ぎだった。 「SMBさんはいります」 うっす、おは。おはようさんっす 男たちの低い声が聞こえる。 仲間は楽器を手に音合わせ、俺も立ち位置なんかの確認。 隣のステージ上では、出番の奴らが一曲弾いている。 「台風」と上を見上げ指さしたのは、お調子者一個下、ベースのヒー。俺たちも空を見上げた。雨は降らないといっていた、どんよりした空、どこが台風なんだ?というと海を指さした。流れる雲が真っ黒で、そこだけ雨が降っている。すごい、自然の力というか、あちこちの雲からこぼれる日の光がきれいで、このまま見ていたい。 「早くしろ、時間押してるぞ!」うち砕くような声。 台風、台風とはしゃぐヒーの声に、 「何言ってんですか、縁起でもない、サマステ第一弾なんですからね」 「張り切ってよね、しっかりやってよ、本番まで遊んでられるなんて思うなよ!」 そんな声に押され、笑いが起きた。 リハーサルは淡々と行われ、16時開演まで二時間となった。 ステージの横にはトレーラーハウスが並んでいるが、熱くて外の方がいい。みんなうちわであおぎながら外のパラソルのした。 蚊取り線香がバンバンたかれ、煙い。 虫が多いのは涼しい証拠らしい、まあ東京に比べたらだいぶ涼しいと思うけど。 腹出して風邪ひくなと、腹巻をしていると見せる人たちもいた。 スタッフたちは最後の最後まで気が抜けないからあちこちから怒号が聞こえ、走り回る人たち。 二日間出る俺たちは後の方、今日だけのは、電車や交通機関が動いているうちに帰るしかないのだ。 俺達に止まりかよ、いいなというバンドたちが出ていく。俺たちは手を振って他のバンドと話していた。 海風が気持ちいいなー。 夜十時コンサート終了。 「お疲れ!」 乾杯と初日成功で軽く打ち上げ。 缶ビールやジュースで終わらせる。 「ねえ、ねえ?」 ヒーが、スタッフに、外人さんが来てたでしょと聞いた。 スタッフは言葉がわからなくて、どうにもならなかったといった。 あれ?英語話せるのならいたよなと他のバンドにみんなの目が行ったのだが、フランス語で駄目だったと彼は言ったんだ。 片言の英語も聴き取れなくてごめんなさいだったそうだ。 中年男性で金髪、イケ叔父にみんなが盛り上がった。
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