第三話

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一応サングラスを取って、仲間だと話した。 皆さんに助けていただいてという彼女は、お茶でもどうぞというので中へと入らせてもらった。 そこは海じゃなくて川だった。 「うわー、いい景色」 「スゲー、こんなにきれいな川初めてかも」 澄んだ川は、魚が泳いでいるのが見える。 船があり、ここから海に出るそうだ。 日陰になった場所にあるデッキチェアを彼女は進め、麦茶をもってきてくれた。 水ようかんやゼリーをも食べろと出していただいた。 俺達は遠慮なくいただき、彼女がどうしてあんな夜にあそこにいたのか聞いたんだ。 「さっき花火がどうと聞こえたんですが?」 それは中止になったお盆の打ち上げ花火のことだった。 幼いころ母親に連れてこられたこの海岸で見た花火は、使者が帰ってきた最後に、ここから天国へ帰ってもらうためにあげるのだと聞かせていた。 フーと大きくため息をついた彼女。 母親が亡くなって、花火をあげるもんだと思って帰って来たんです、だから、口論になってしまってという。 彼女が目をやった場所は、お盆の準備をして、青い灯篭が回っていた。 そうですか? 彼女はどこに行ってのですか? 昨日の場所、あそこは、地元の物しか行かない穴場だったので、よくあの子を連れていったという。 そこはあそこから伸びている階段で、海の端に行った場所だと思うと彼女は言った。 今日、海岸でロックコンサートが行われ、最後に花火が打ち上げられると話した。 「ほんとうですか?」 「はい、夕立ちだけ振らなきゃいいんですけどね」 「明日は降りません」というババア、いい切ったぞ? 「そりゃいいや、あの、ちょっとお尋ねしますが、あの子のお国は日本ですか?」 「ええ、生まれはね、今ちょっと海外へ行ってましてね」 「あのどちらへ」 おばあさんは変な目で見てる、そうだよな? 「あ、そうだ、実はちょっと、こんなのを拾いまして、誰か言葉のわかる人を探してたんですが」と言ってエイちゃんはポケットからメモを見せた。 「あら、これじゃあ、わからないわね」 「やはりそうですよね、メッセージボトルみたいだったもんで」 ヒーちゃんがそうだとスマホを出した。どこだったかなと言いながらお婆さんにそれを見てもらった。 「メッセージボトル?もう一度見せていただいても構いませんか?」 おばあちゃんは、メモを手にすると、裏を見て、太陽に透かして、そして大きなため息をついた。 「すみません、これ、孫が書いたものです、すいません、まったく、ごみになるからやめろって言ったのに」 「それじゃあさっきの子が書いたんですか?」 「ええ、ここ、ジュン、わかります?」 すかしたメモの最後の言葉。 ア~わかる、わかるわ、なんてみんなが覗いた。 『ヒラタジュン?』 「はい、孫です」 男の子のような名前だが俺はさっきからあの子と言っているからどっちだか分らん。やっぱり残念だったか? 彼女は、母親と最後に花火の話をしたらしくて、それを楽しみにしていたそうだ。 でもメッセージボトルは、どこかの国の人が拾うわけで、何を書いたんだろうという話になった。 彼女は、母親が若い時に父親が海で亡くなってその思いを流した。メッセージボトルがチリに届きその人と手紙のやり取りをし始めた。 それは、一人だけじゃなくて、数人に広がり、今の旦那さんへと何かの形で広がっていったそうだ。 大学に入り、ヨーロッパへ行き、彼女は、旦那さんと結婚をし、純、連、と二人の子が生まれたそうだ。 でも、彼女の母親は交通事故に巻き込まれ亡くなった。 二人の子供は、日本に帰りたがっていた母親を返そうと、日本のお墓に彼女を埋葬したそうだ。 毎日海に行ってはボトルを流しているみたいでと彼女は困ったように言った。 フランスじゃあ無理? たぶんな。 俺は、彼女の背中で回る灯篭の灯りに目を奪われながら、話を聞いていた。 ルーって苗字なんだね? なんのこと? ルー、純、平田だってさ。 へー漢字なんだ。 違う逆と言われている。 そろそろ昼。 ああ戻らなきゃ。 もしよければ、それをくれないかと話してみた。 彼女の足元には埃をかぶった木箱、そこにはサイダーの空き瓶が積んである。 これですか? いいんですか?重いですよ?という彼女はビニル袋を出してきてそれに入れた。 「はい、すみません、無理言って」 その場でペコペコ頭を下げ、俺は民宿に戻ろうとした?すみません、と言ったのはジロちゃん。この辺にたばこ売っている店ありますか? 俺達はそれに笑った。
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