あの夏の花火

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あの夏の花火

出会ったのは桜の散った春の体育館 マネージャー候補のカノジョは 同じクラスの サラサラストレートな黒髪が印象的な子だった。 知り合って一年後の夏 一緒にここで花火を見た。 二年後の春。 カノジョは俺の前から消えた。 二度と同じ時間を過ごすことは出来なくなった。 手水舎(ちょうずや)で、そっと指先に水を流す。 生ぬるい風とは違うひんやりとした感覚に カノジョが死んだと知った時の ゾクっとした記憶を思い起こさせた。 いくつもの時間が過ぎた。 どんなに時間が過ぎても あの子が ここにいないことを理解できなくて いつまでも この場所に留まる自分が思い出すのは カノジョに伝え忘れた言葉の数々。 もう同じ時間を過ごすことはない。 花火の後に行こうと言ってた金魚すくいは 露店の店じまいで間に合わなかった。 あの時 浴衣姿がきれいだと思ったこと。 一緒に笑った時間が たまらなく楽しかったこと。 寝癖を触ってきた柔らかい指に照れくさくなったこと。 俺が もっと大人だったら 伝えれたかもしれない言葉の数々。 最後にヤキモチを妬いていた五十嵐に 好きだと伝えることができなかったこと。 あの夏の夜が 2人きりで出かけた初めてのデートだったこと。
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