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「ねえ、織姫の星はあるのかしら」
「こと座のベガだね。夏の大三角の天辺に見える星……あれだよ」
私は彼女の手を取って、夏の大三角をなぞって、織姫星の場所で手を止めた。
「わかった?」
彼女はじっと指先の向こう側を見ていたが、直後、一筋の流星が夜空を横切った。それが合図だったように、次々と流星が流れ始める。一秒にひとつ、あるいはそれ以上かも知れない。
「すごい、止まらないよ」
私は興奮して隣の彼女を見たが、さらに驚くことになった。彼女の身体がぼんやりと光っているのだ。
「やっと見つけた」
「……見つけたって、何を?」
彼女は人差し指を上に向けて、微笑んだ。
「わたしの星」
「え?」
次の瞬間、私は意識を失っていたようだ。確信が持てないのは、ただ目眩がしただけのような気もするからだ。事実だと言えるのは、一瞬の閃光を見た後、彼女の姿が消えていたということだけだ。
夜空を見上げると、織姫星に目をやってしまう。あの夜に起きた出来事や、私が見た彼女は幻だったのか。その答えは、ノーだ。彼女の手を取った時に、彼女が私にあるものを握らせていたからだ。
淡い桃色をした、透き通る宝石。彼女が何者なのかを考えるのは無粋な気がしたし、誰かに話すつもりも無かった。彼女の事は私の胸だけに仕舞っておこう。
私は夜空に一際目立つ織姫星に宝石をかざした。宝石は、あの時の彼女と同じ、淡い輝きを放った。
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