6人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
「ホントに星が好きなんだね」
「好き、という表現は少し違うのだけれど」
彼女は含みのある言い方をした。山奥で会ったときも、星が綺麗に見える場所に行くだけだと言っていた。実際、彼女が案内した先は、邪魔な立木が無いことで、満天の星空を見上げることが出来た。
元々、星を見るのは好きだった私は、一ヶ月後の流星群を天文台で見る約束を彼女と交わした。
「あそこにしましょう」
彼女は展望台の一番高い位置に備えられたベンチを指さした。幸い、他の見物客はいないようだ。
二人で並んで座ると、腰掛ける部分に少しだけ傾斜が付けてあって、天然のプラネタリウムを見ているようだった。
「天の川もよく見える」
「あまの……何かしら」
私が指さすと、彼女は不思議そうに聞いてきた。
「知らないの? 七夕の話にも出てくるでしょ」
「たなばた?」
彼女はふざけている訳ではなさそうだ。星が好きなのに、天の川や七夕を知らないのは不思議だが、帰国子女か何かだろうか。
「ざっくり説明すると、天帝の娘の織姫が、働き者の彦星と結婚するんだけど、結婚してから働かなくなってしまうんだよ。天帝は怒って二人を引き離してしまうんだけど、可愛そうだから、一年に一度、七月七日だけは、天の川に架かった橋を渡って、会うことを許されるっていうお話」
彼女は黙って聞いていたが、ポツリと呟いた。
「そう、伝わっているのね」
「ん? どういう意味?」
彼女はそれには答えず、もう一度空を見た。
最初のコメントを投稿しよう!