天の川の下で

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「今日こそは、見えるかしら」  彼女はそう言いながら、前を歩いた。 「見えるといいね、流星群」  数十年に一度と言われる流星群を見るため、私たちは山奥の天文台までやって来ていた。  * * *  彼女と知り合ったのは、先月の初め。その日の仕事の帰り、私はいつもは通らない山道のルートをバイクで走っていた。何気に見上げた夜空が、その日はすごく近くに感じられて、気晴らしに星空を見ようと思ったのだ。  星空を見るには、人工的な明かりは邪魔になる。私は普段なら立ち寄らない、人気のないパーキングにバイクを停めた。  ヘルメットを取ると、季節外れの冷たい空気が頬を撫でる。照明がないので、何かに出くわしそうで心細くなる。私は少し後悔しながらも、せっかく来たのだからと、空が望めるガードレールの方へ歩いた。  ガードレールに近づいたとき、私は人影が見えた気がして、立ちすくんだ。身に危険が及ぶ事態を想定して、息を殺し、身をかがめて様子をうかがう。  少し目が慣れてきて、姿形がおぼろげに見えてくる。体格からして、子供か女性のように見えた。どうも、ガードレールを乗り越えようとしているように見える。 「ちょっと待った!」  私は咄嗟に叫んでいた。その腕を掴むと、相手はこちらを振り返った。 「何かご用ですか?」  それは、至って冷静な女性の声だった。
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