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 川沿いの土手に隆一は腰かけていた。 「え? どしたの? なんで走ってなんか」 「ごめんね……はぁ……急に……ふぅ……」 「ちょっと待ってて」  隆一は自販機でスポーツドリンクを買ってきてくれる。ぐいっと飲む。 「はぁ……ありがとう」 「で、どしたの」  当たりはさっきまでの花火の喧騒とはうってかわって、とても静かだ。 「明日から学校じゃん?」 「おう」 「夏終わっちゃうじゃん? だから、今日、隆一に言っときたいことがあってさ」  何を言っても響いてしまいそうなくらいに静かだ。やっぱり、夏は終わるのだ。 「あのさ「待って、美桜」」  隆一が遮る。 「俺が先だ」 「え?」  しっかり目を見てくれたまま、 「好きだ。俺と付き合ってほしい」 「え? え?」  手元のスポーツドリンクを落としそうになる。 「ずっと友達のままが楽しいと思ってて、そんな自分を変えたくて、誘った。やっぱり二人で友達として過ごすのは本当に楽しくて、踏ん切りがつかなかった。急にこんなこと言ってごめん」  初めてのことばかりで驚いてばかりだ。隆一は何を言ってるんだろうか。 「遮ってごめんよ。美桜は何を言おうとしてたの」  私の気持ちが安心でしゅるるとしぼんでいく。 「私のはもういいの。謝らないで」 「お、おう」 「ありがとう隆一。私でよければよろしくね」  驚いたのか、安心なのか、隆一も次の言葉がでてこない。私は気づく。いや、ずっと前からわかっていたのだ。きっと私たちは経験することのほとんどは初めてのことだから、普通は驚いて口にできないことの方が多くて仕方ないんだろう。  二人とも少し落ち着いてから、遅くなったしと今は人混みでもないのに手を繋ぎながら隆一は私を送ってくれた。    私の手をひいてくれる。先へ、先へ。 ◇ 「そういえば、あの日川で何してたの」 「いや、今日告白できなかったなーってボーッとして、美桜に電話かけるか迷ってたらあそこにいた」 「え?」 「いや、やっぱわかんねーわ。今だからそう思うのかもしれないし」  部活終わりに一緒に帰りながら、私から尋ねる。同じ部活同士の腐れ縁と言うこともあり、あっさり公認のカップルになってしまった。セミの声もだんだんと減ってきた。無事に9月を二人で過ごせている。  だけれど私は少しだけズルをしてしまったんじゃないかという思いを抱えている。彼と付き合うために何周も過ごしてしまったんじゃないかというわだかまりがあるまま。漠然と口にする。 「じゃあね。もしね? 私が振り返って追いかけなかったら、どうだったかな?」 「え? どうって?」 「いや、その……そのままあの夜はもう会うこともなかっただろし、こうやって……その……」  言葉にしようとした途端に恥ずかしくって、うまく言葉にできない。なんとなく察してくれた隆一から逆に聞いてくれた。 「もし美桜が来なかったら、付き合えなかったかもって?」  笑いながら隆一は、 「そんなもしもなんて考えても仕方ないっしょ。きっとどっかで俺たちは付き合ってたよ」  悩みや迷いなんて、関係なく、言い切ってくれる。 「それにね。今となってはわからないけどさ、あのあともしかしたら俺の方から追いかけてたかもじゃん?」  私は目をまっすぐ見てくれる。 「あったかもしれないことや、なかったかもしれないことを気にしなくていいじゃん」 「……うん。そうだね」 「てか9月なのにまだ暑いよなー」とか言いながら私の手を握ってくる。 「余計暑いじゃん」  私も握り返す。けど、嫌な暑さなんかじゃない。私をここまで連れてきてくれたのは、この手なのだ。  二人で見上げた9月の空は、どこまでも晴れている。
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