1

1/1
前へ
/4ページ
次へ

1

1 「えぇ!? 今の当たったくない? 美桜見てたよな?」  隆一は、周囲の喧騒に負けないくらいの大声で、私に同意を求める。彼の放ったおもちゃの弾は、確かに新型ゲーム機を捉えた。びくともしなかったけれど。 「当たったけど倒れてないから、だめっしょ」  納得いってない隆一に、縁日のお兄さんは声をかける。 「お嬢さんの言うとおりだ。またお願いねー」  少し離れてから隆一は「誰がいくか」と恨み言を口にしている。 「多分対象年齢外でしょ。私達」 「いや、あのゲーム機は大人も遊べるやつだぞ」 「射的がよ」 「…………」  少し照れたのか押し黙っている。かっこ悪いところを見せたとでも思っているのだろうか。  始まるときは長すぎると思っていた夏休みも、今日の花火大会で終わりを告げる。私も隆一もそれぞれテニス部で、お盆以外のオフは今日だけだった。 ◇ 『明後日の花火、いかん?』  今年も部活だけで夏が終わったなーと思っていたタイミングで彼からLINEが来た。周りの友人たちは宿題がなんだとか言って、誰も8月最後の日に遊びに行く空気なんてなかった。ナイスだ隆一。 『いく』    即レス。  中学の頃から同じ部活の付き合いで、色んな友人が高校生になってからできたものの、なんだかんだ私と彼はずっと仲がいい。お盆にはファミレスで一緒に宿題したりもした。でも、返事してから気づく。あれ……私、男の子と花火大会に行くなんて初めてだぞ……というか普通の男女の間合いで花火大会なんて行くの……?   てか、普通って何なんだろう……?  せっかくの花火大会だからという名目で、久しく着ていない浴衣がどこにあるか母親に尋ねる。 「と、友達と花火大会にいくことになったの」  相手が腐れ縁の隆一なのに、妙に頬があつい。 ◇ 「どーした美桜。ぼーっとして」と隆一は私の顔をのぞきこんでくる。 「あ、いやなんでもない」 「慣れない浴衣で疲れたりしてる? ちょっと休む?」 「いや、優しいんだか毒吐いてんだかわかんないんだけど」 「お、そろそろ始まるな。川沿い向かうか。あと浴衣似合ってるぞ」 「もっと言うタイミングあったでしょ」  隆一が何を考えているのか、わからない。私自身隆一のことをどう思ってるのかもわからない。  でも、人が増えてきて隆一が「はぐれそうやな」と手を握ってきたときに、びっくりしたっていう感情以上に、まだ花火が始まらなくていいとは思ったし、隆一の手、緊張している気がする。  のもつかの間。  ドン……パラパラパラ……   「お、始まったな。早く座れそうなとこ探そうぜ」  川沿いには沢山の人が詰めかけている。私たちも身を寄せ合って、腰かけて花火を見上げる。色とりどりの花火が開いては、しぼんでいく。 「きれいだなー」 「うん」 「ずっと見てられるわー」  ヒュルルルー。ドンドンドン  この花火が終わったら、夏が終わる。また私たちは腐れ縁の友達同士。きっと何も変わらず、楽しい。 「学校めんどいなー」 「だねー」  でも今のこの時間は楽しすぎる。横に座る隆一に目をやる。ずっと続けばいいのに。  あっという間に最後のものと思わしき花火が上がって、興奮冷めやらぬまま家路につく。 「ありがとな。美桜。射的はあれだったけど楽しかったわ」 「お誘いありがとう。なんとか思い出作れたよ」 「俺なんかと来てよかったのか」  隆一はいつもの軽いノリで聞いてくる。けれど、もしかしたら。  いや、私を誘ったときから隆一はきっとそうなのだ。 『あんたと来れてよかった』とさえ言えば、もしかしたら、友達より少し先にいけるのかもしれない。でも、うまく言えない。 「楽しかったよ。また明日学校でね」  私はにっこり笑顔で返す。隆一は、やっぱりそうだよなって顔に書いてある。 「おう。家この辺だよな。気を付けて」 「ありがとう」  お互い距離が近すぎて気が付かなかった。けれど、今じゃなくてもいい。9月からもっといいタイミングがあると信じて。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加